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重大事件に学ぶ「危機管理」

危機管理の第一人者、というか「危機管理」という言葉自体の生みの親でもある佐々淳行氏の危機管理ノウハウ本。といっても危機管理だけでなくビジネスマンとして、そしてリーダーとして使える小ネタが分かりやすく書かれている。

著者の佐々淳行氏について簡単に書いておくと、警察庁の官僚出身で黙ってれば警察庁長官にもなれたらしいが、持ち前の”乱世の雄”気質のために警察庁にはいられなくなり、最後は初代内閣安全保障室長に流れ着き、ここで退官。ちなみに警察庁から防衛庁に不本意ながら出向させられる顛末について書いてあった。何とも呆れる内容だったが。。。で、警察庁時代には、「東大安田講堂事件」「連合赤軍浅間山荘事件」等の警備幕僚長も務めており、映画「突入せよ!「あさま山荘」事件」の原作者でもある。この映画もかなりオススメです。レビューはこちら

(「BOOK」データベースより)

東大安田講堂事件、あさま山荘事件、大島三原山噴火など、数々の難事件や災害に対処してきた「危機管理」のエキスパートが、近年の政治や企業のトラブルに触れつつ語った「危機」対策の戦略戦術マニュアル。阪神・淡路大震災、9・11米中枢同時多発テロ地下鉄サリン事件など、豊富な事例をもとに、問題対応の鉄則を説く。

 

 

 

ノウハウやハウツー以外の業界エピソードだけでも読んでよかったと思えた。イラクの奥参事官”殉職”、ミグ25亡命事件の消極的権限争議、日銀リュックサック部隊、新大久保電車事故でのある医師の勇気ある行動などなど、とにかく内容盛りだくさん。それから凡人軍人変人の凡人、故小渕恵三元総理のスーパー凡人ぶりのエピソードもなかなか面白かった。

肝心の危機管理については公助・互助・自助に分けて考えている。そして阪神・淡路大震災での”官災”などを考えると、日本ではもはや公助はアテにならないので互助・自助が重要とし、その互助・自助の強化こそが農耕民族の日本に根付く最適な危機管理だとしている。

それからこの本の根底にあるのは”オレがやらずに誰がやる”の精神で、それを具現化したのが下記の後藤田五訓といったところだと思われる。

五訓の一「省益を忘れ、国益を想え」

五訓の二「悪い本当の事実を報告せよ」

五訓の三「勇気を以て意見具申せよ」

五訓の四「自分の仕事でないと言う勿(なか)れ」

五訓の五「決定が下ったら従い、命令は実行せよ」

うーん、確かにこれはスゴイ。これは著者も書いているが、課せられた部下も大変だが、課した上司もかなり大変、まさに両刃の剣。けど、これを実現できる上司部下の関係が築ければ、仕事の成果はすごいものになりそうだ。

個人的には、五訓の二の悪い報告でのテクニック、稚速報告(ラフ・アンド・レディ)が参考になった。一見、単なる臆病モノの責任逃れ技のようにも見えなくもないが、著者のようにきちんと責任を負いながら実行すれば確かに有用だと思う。

それから、最後の方に出てきた苦しい状況に追い込まれたときの3つの呪文も良かった。

1.人間の始めたことは必ず終わる

2.日はまた昇る

3.人の噂は75日ももたない

とくに1に共感。仕事上のプロジェクトで火がついたりすると、もう先が全く見えなくて、このまま終わらないのでは?という錯覚に陥りがちになる。でも、どんな苦境も必ず終わりがあるはずなんだと思えば、何とかがんばれる。これを部下にさりげなく示せれば、かっこいいリーダーになれそうだ。

この他にもタメになる話がまだまだあって、阪神・淡路大震災とノースリッジ大地震の日米政府の対処の違いとか、米国のエレベーター・ブリーフィング→スリー・ミニッツ・リポート→フィフティーン・ミニッツ・デシジョンについて、それから人類の歴史が文字になってからの3400年ちょっとで戦争がなかったのはたったの286年という話など、とにかく内容盛りだくさんの一冊だった。