ザキレポ

ネタバレ上等ブログ

赤朽葉家の伝説

★★★★
桜庭 一樹
価格
何とも云えない読後感(もちろん満足感)
ある家系をめぐる物語という意味では『楡家の人びと』や『ブッデンブローク家の人びと』の重厚さを若干彷彿とさせながら、一風変わった多彩な登場人物を巧みにあやつりつつ、一気に読ませるストーリー・テリングの...
あまなつShopあまなつで見る同じレイアウトで作成
少女には向かない職業』に続く桜庭一樹作品。本を手に取った時はそのボリューム感に圧倒され、読み始めるのに躊躇したが、実際に読んでみるとあっという間に読み終えてしまった。自分がこれまでに読んだ中にはないタイプだったのでなかなか楽しめた。 鳥取の紅緑村(実在しないっぽい)に古くから君臨する旧家赤朽葉家。この製鉄業を営む名門家に生まれた赤朽葉瞳子が千里眼奥様と敬われた祖母、圧倒的な人気を誇る漫画家だった母について大いに語り、そして最後はきっちりミステリーに読者を導く。 日本の戦後史を追いながら語られる赤朽葉家の歴史はただただ圧倒されるばかり。まさに数奇な運命に翻弄された一族の物語だ。

(「BOOK」データベースより) “辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の“千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。―千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。

日本推理作家協会賞を受賞した本作品。『このミステリーがすごい!』2008年版国内部門では第2位となっている。ということで、てっきり推理しまくりの謎解きモノかと思って手にしたのだが、推理小説っぽくなったのは最後の第三部に入ってから。それでも最後はスッキリでき、読後感もなかなか。 全編を通して、赤朽葉の長女、赤朽葉瞳子の語りで進んでいく。祖母、母、そして自分について語る中で、実際の戦後史を交えている。全共闘闘争、石油ショック、国民所得倍増計画、校内暴力、イジメ、バブルなどなど、懐かしの時事ネタを余すところなく挿入することで、話にリアル感を盛り付けている。 第一部は瞳子の祖母万葉を中心としたストーリー。万葉は、山に潜む”辺境の人”が村に置き去りにしていった娘で、村のとある夫婦に引き取られ育てられた。万葉は文字の読み書きができなかったが、未来を予言視するという不思議な能力を持っていた。”辺境の人”由来の風貌から小さな頃はいじめられ、辛い思いをしてきたが、赤朽葉家の大奥様タツに気に入られ、跡取り息子である曜司の元に嫁入りする。そして、得意の未来視によって赤朽葉家の窮地を何度も救い、千里眼奥様として敬われることになる。子どもは4人産み、タツによって泪、毛毬、鞄、孤独と名づけられたが、人名漢字でないため、役所には波太、真里、花盤、次郎の名前で届けられている。これがその後のトリックか何かに関わるんじゃないかと、いろいろ推理してみたが、結局何にも関わらなかった。それにしても次郎だけずいぶん投げやりだ。。。この子ども達の話の他、曜司の妾の真砂やその娘の百夜の話、幼馴染の黒菱みどりの話など、多くのエピソードが語られている。 続く第二部は瞳子の実母である毛毬の話。成績も優秀な長男の泪が赤朽葉家を引き継ぐと見られていたが不慮の事故で死亡してしまう。悲しいことに万葉は泪を産んだ際にこの死を未来視してしまっていた。泪の事故死により、急遽毛毬が婿を取り、赤朽葉家を背負うことになる。さてさて、この毛毬だが、中学時代からレディースチームを率い、ついには中国地方を制覇した伝説のレディースヘッド。レディース引退後はその経験を題材にした漫画家活動で成功する。人気漫画家として執筆中に泪が事故死し、急遽婿を取ることになった。政略結婚での婿取りではあったが、夫を立てて、赤朽葉家の長女としての責を全うした。そして、週刊漫画連載という過酷な状況の中、一女を産む。これが本作品の語り手である瞳子だ。瞳子を産んでも相変わらず漫画執筆に明け暮れ、12年間週刊連載という偉業を終えたと同時に力尽き、帰らぬ人となる。それにしてもすごい死に方だ。 そして第三部は瞳子自身の話、、、かと思いきや、本人曰く、祖母や母のように語れるものは何もなく、ただのニートだという。あまりの平凡さに、”ああもぅ。死んでお詫びしたいところだが、でも生きていたいです。”という言い回しなどは、かなり笑える。ん?じゃあこの第三部は一体何なのか? そう、ここでやっと推理小説になる。 「わしはむかし、人を一人、殺したんよ。」万葉が死の間際に瞳子に遺したこの言葉。瞳子はこの言葉に突き動かされ、恋人のユタカとともにその謎を解き明かそうとする。赤朽葉家の話に出てくる死者をひとりひとり調べていき、万葉が殺したという人を探していく。結局、最後の一人まで調べていっても万葉に殺された人は分からずじまい。が、ここで瞳子が万葉の夢を見て、その謎が解き明かされる。でも、夢で真相がわかるというのは推理小説としてはどうなんだろう。。。意外性もあるし、少し悲しさも含まれていて結末は悪くないんだけど、捜査に行き詰って夢で真相にたどり着くというのは少し強引だ。。。 まぁ、これだけのボリュームなのにあっという間に読み終えたのは楽しめた証拠だろう。読み終えた後の達成感とスッキリ感もなかなかだった。 本作品同様に親子三代の物語で、『このミステリーがすごい!』2008年版国内部門第1位となった『警官の血 上巻』『警官の血 下巻』も気になってきた。近々読みたいと思う。