★★★★☆
久しぶりの伊坂作品。『
グラスホッパー』以来かな。今回の主人公は何と死神。死が予定されている対象者に接触し、その死が相応しい(可)か否(見送り)かを判断する役目だ。「可」とされた場合、その人間には確実に死が訪れるという。もっとも、ほとんどの場合、「可」となるわけだが。。。
ちなみに本作品は2008年3月に
映画化されてるんだけど、タイミングが合わずに劇場には見に行けなかった。原作とはまた違った話になっていて、なかなかいいらしい。DVD(『
Sweet Rain 死神の精度 スタンダード・エディション』)で見ようかと。非常に楽しみだ。
(「MARC」データベースより)
「俺が仕事をするといつも降るんだ」 クールでちょっとズレてる死神が出会った6つの物語。音楽を愛する死神の前で繰り広げられる人間模様。『オール読物』等掲載を単行本化。
本作品の死神の設定は絶妙だ。会社組織みたいになっていて、死の対象者に関する情報を扱う「情報部」、その対象者に接触して調査する「調査部」といった具合に分かれている。人間界に派遣される調査部の死神は、名前は町や市の苗字が固定で割り当てられていて変わらないが、容貌については毎回そのターゲットに接触しやすい外見に変えられる。また、なぜか音楽(ミュージック)にご執心で、CDショップの視聴ヘッドフォンに集まってくる。ミュージックプレイヤーとか買えばいいのに。死神界にはそういったものがないのかな?
主人公の千葉は調査部員として対象の6人に接触し、その死について「可」か「見送り」かを判定する。この千葉のクールさとズレさ加減、それにKYぶりがまたたまらない。ヤクザや殺人逃亡犯にもビビらず、周囲がどんなにあたふたしていてもマイペースを貫くクールさもいいが、雨男と雪男を一緒のくくりにしたり、「でも、甘く見てると意外に、吹雪、長引くかもしれねえよな」に対し、「甘い? 吹雪に味があるんですか?」と返すズレっぷりも持ち味だ。また、密かに用意していた入手困難チケットを相手の女性も用意してくれたことが分かり、男は自分のチケットの存在を隠して「これ、行きたかったんですよ」と応えるも、千葉は「このチケット、おまえも持ってるじゃないか」といらんことを指摘してしまう。うーん、クールなだけでもズレてるだけでもダメで、こういう相反する属性を合わせ持つキャラが一番魅力的なのかも。あと、音楽に目がなく、ヘッドフォンを見ただけで「ミュージック!」と叫んでしまう千葉には笑えた。
さて、千葉が死の可否を調査する対象者は以下の6人だ。それぞれが連作短編形式で綴られていて、余韻を残した終わり方は見事だ。
・
藤木一恵…大手電機メーカーの苦情処理係の冴えないOL
・藤田…自分のせいで兄貴分が殺され、その復讐に燃える今時珍しい仁侠魂を持ったヤクザ
・田村聡江…女に騙され服毒自殺した息子の復讐を夫や知人と企てた母親
・荻原…イケメンをダサ眼鏡で隠しつつ、向かいのマンションに住む女性に恋する青年
・森岡…幼い頃に誘拐されたトラウマを引きずり、自宅で母親を刺し、街で若者を刺殺した逃亡犯
・新田…周囲で死神による死が多く、海が見える高台の美容院を営む老女
個人的には逃亡犯森岡の話が一番楽しめたかな。幼少時のトラウマの誘拐犯の一人を殺すために
十和田湖を目指すが、その旅路で千葉と接することで森岡の心が揺れ動いていく。殺人逃亡犯であることを伝えても一向にビビらない千葉に最初は苛立った森岡だったが、徐々にそのクールさを頼るようになる。
まぁ、ステーキを食べる森岡に「死んだ牛はうまいか」と言ってみたり、「これは」「やばいくらいに」「うますぎる」と肉料理を頬張る森岡を見て、同じく「これは」「やばいくらいに」「うますぎる」と人参を頬張ってみたり、そういったズレさ加減も発揮してくれて思わず笑えてしまう。
それでいて、目指していた幼少時のトラウマの誘拐犯の一人が、実は犯人ではなく、森岡を助けてくれたのではないかと独自の推理を展開。最初は聞く耳を持たなかった森岡だったが、最後の最後で心を開く。結構感動した。
あ、途中の仙台では『
重力ピエロ』の春と思われる人物にも遭遇。なかなか衝撃的な組み合わせだったなぁ。。。
あとは最終の老女の話。なんとこの老女が荻原が恋した女性であることが判明する。荻原が死んでからの50年、彼女の半生が垣間見えて作品全体に奥行きが出てくる。さらに6人のうち、唯一(と思われる)「見送り」と判定された
藤木一恵がその後ミュージシャンとして成功したことも分かり、こういった仕掛けが伊坂チックでよかった。
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