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警官の紋章

笑う警官』『警察庁から来た男』に続く佐々木穣の道警シリーズ第3弾。シリーズ過去2作同様、複数の捜査が同時進行し、徐々に一つの巨大な腐敗へと収束していく。その事実は第1作『笑う警官』の結末はただの入り口に過ぎなかったことを明らかにする。

 ちょっと説明不足なところもあるが、ストーリー展開も無理なくスピード感があって、それなりに厚めの本なのにサラッと読めてしまう。さすがだ。ただし『笑う警官』とのリンクが深いので、これを読んでいないと楽しさが半減してしまう。

 そういえばつい先日、このシリーズの郡司事件の元ネタとなっている実在事件に関する報道があった。覚せい剤取締法違反罪などで服役中の稲葉圭昭・元北海道警警部が道警の違法捜査について証言したという内容。それによると1997年11月パキスタン人男性に対する拳銃おとり捜査が行われ、稲葉元警部は違法捜査を認める証言をし、道警のこれまでの見解を覆す形になったらしい。さらに、「『S』(スパイ=捜査協力者)を使っていたということを自分だけが知っていたわけではない」とまで証言し、道警の組織的関与も示唆したという。稲葉元警部は事件当時、道警銃器対策課にいたとのことで、本当にこれって郡司事件そのものだなぁ、、、と思った。防弾ガラスで守られたとかは書いてなかったけど。

警官の紋章 (ハルキ文庫)
佐々木 譲
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(「BOOK」データベースより) 北海道警察は、洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。そのさなか、勤務中の警官が拳銃を所持したまま失踪。津久井卓は、その警官の追跡を命じられた。一方、過去の覚醒剤密輸入おとり捜査に疑惑を抱き、一人捜査を続ける佐伯宏一。そして結団式に出席する大臣の担当SPとなった小島百合。それぞれがお互いの任務のために、式典会場に向かうのだが…。

プロローグは第1作『笑う警官』の津久井証言の数日後、ある警官が列車踏切事故を装って自殺を遂げるシーン。津久井証言に絡んで地裁公判に証人として召集されていた警官の自殺。証言すれば組織への裏切り、真実を隠せば偽証罪、逃げれば法廷侮辱罪と八方塞がりでの選択だった。この印象的なプロローグは第1作のプロローグとも重なる。

 本編は洞爺湖サミットの特別警備開始の8日前からスタートする。警備8日前の小島百合のストーカー逮捕劇、7日前のプロローグで自殺した警官の墓参り、そして3日前の道警内各所での警備体制強化とシーンが進むにつれて、日比野という警官がプロローグで描かれた父親の自殺の責任を追求するために、警察庁長官や各都道府県警察の本部長クラスが一堂に会するというサミット警備結団式で何かを企てていることが見えてくる。

 そうこうしているうちに事態は複雑に。あの津久井は警務部教養課への突然の移動が命じられ、小島百合は警備部警護課にてサミット担当特命大臣上野麻里子のSPチームを応援をすることに。そして日比野は制服で拳銃を所持したまま失踪。。。

 さらに佐伯には愛知県警で大規模な自動車窃盗および密輸事件を担当している服部警部補が接触してきて、2年前の津久井証言直前に関わった自動車密輸犯罪の捜査とその不自然な顛末が、道警だけでなく地検や税関までもが関与した壮大なるでっち上げ捜査だった可能性をほのめかす。しかもあの郡司事件ですら、この壮大な裏工作の一端ではないかと。ここでプロローグでの自殺シーンを思い起こす。この自殺をした警官はサミット警備結団式で何かを企んでいる日比野の父親なのだが、彼は自殺する直前に親友警官の宮木に郡司は全てをひっかぶった、といったことを打ち明けている。服部が話す一連の話は、この壮大なでっち上げ捜査で使われた覚醒剤が郡司が調達したものだということを、つまり、あの道警を揺るがした汚職事件をも凌駕する裏工作が行われていたことを示唆していた。

 さてさて、警視庁SPチームに合流した小島百合だが、チーフの酒井警部補に食事に誘われて何か喜んでいる。うーん、、、前作で佐伯といい感じだったのは気のせいだったのか? と思ったら、第1作の有志チームのアジトだったブラックバードで小島と酒井が飲んでいるところに佐伯がやってきて何か面白い展開に。やはり佐伯と小島はお互いを意識している。

 ここで意外な関係が明らかになる。冒頭で小島百合がストーカーから助けたデリヘル嬢村瀬香里と日比野伸也がかつて恋人同士だったようだ。警備網をかいくぐり札幌に入った日比野は村瀬香里の元へやってくる。

 一方、警務部に異動した津久井はというと、かつて郡司事件を内偵した長谷川と共に失踪した日比野を追っていた。警察学校時代の日比野の同期に会い、日比野が同僚イジメにいきなりキレたエピソードを得る。堅物警察官の息子にして自身も上司から信頼されている優秀な警察官という最初のイメージからはかなりかけ離れた人物像が徐々に浮かび上がってくる。

 中盤、佐伯との遭遇以降は出番が減ってきた小島、酒井のSPチームだったが、警護対象カラヤンこと上野麻里子大臣を狙う男が登場。コードネーム「カラス」こと久保田淳38歳、かつて上野に人格否定されたらしいが、この辺のエピソードが全く描かれておらず、久保田の一方的な逆恨みなのか、それとも上野にも責があるのかが判断つかなかった。非常に残念。

 いよいよ警備結団式前日ということで新たな情報が見えてくる。佐伯は恩師でもある元上司から宮木へとたどりつき、そこで日比野(父)の遺品から見つけたというでっちあげの有力証拠を目にする。それによれば、このでっちあげ捜査の黒幕は前道警本部長の五十嵐ということらしい。さらに驚くのは、第1作で水村朝美殺害の件で自殺したと思われていた石岡生活安全部長も上層部の何らかの意志による死ではないかという疑惑まで出てきた。

 結団式前夜のブラックバードには示し合わせたかのように佐伯、津久井、小島が顔を合わせる。最後に入ってきた小島の席を決めるくだりは面白かった。佐伯も津久井も小島を遠ざけようとしたが、小島はひるまず二人の間に座る。そんな小島だが決して無意味な登場ではなかった。翌日の結団式には、内閣情報官に栄転した疑惑の五十嵐前本部長が出席するらしい。これで日比野伸也が父親の敵を討つため五十嵐を襲撃することが明白となった。

 そしていよいよ警備結団式当日を迎えた訳だが、小島によると上野大臣と五十嵐は行動を共にするらしい。つまり久保田の上野襲撃と日比野の五十嵐襲撃の両方に備えなければならないということになる。それからもう一つ気がかりなのは日比野伸也の同僚の勝野がネットで久保田のテロ予告を見つけていたこと。これはなにを意味するのか? 何も意味がないのか? 勝野は警察学校時代に同期からイジメを受けており、日比野がそれを助けたという間柄だが、それが関係するのだろうか? となると無関係に思えた二人のテロが勝野を接点として結ばれるのだが、、、 と、深読みしすぎた。結果的には勝野の行動は特に意味がなく、上野と五十嵐の間には何もなかった。

 そしてとうとう事件発生。まずは久保田による上野襲撃が起こる。クレーンでの乱入もありきたりな感じがしたが最大の残念ポイントは久保田と上野の関係が分からなかったこと。かつて恋人同士だったのか、単なるストーカーだったのか、何かしら理由があるはずだが。。。それにしても真っ白いスーツでテロって、、、 この上野大臣襲撃事件で結団式が中止となったため、五十嵐前本部長は昼食会会場となるホテルへ移動したわけだが、ここで今回のメインイベントである日比野による五十嵐襲撃事件が発生。真っ白スーツの次はウェイトレス女装コスプレか。。。佐伯や津久井、新宮や長正寺まで駆けつけ日比野は取り押さえられた訳だが、佐伯が奥野本部長をけしかけ事件をなかったことにしたのは見事。襲われた五十嵐は周囲の警察官に日比野を撃つよう命令するが、津久井が「わたしの射殺命令も、いまのような言葉で出たんだとわかりましたよ」と言い放ち終了。

 事件は両方ともあっけない幕切れで正直残念だったが、エピローグはなかなか楽しめた。佐伯と小島が密会するイタリアンレストランに津久井と新宮が乱入。それまではなかなかいいムードだったのに二人の乱入と本部からの要請で散開になってしまう。緊張続きのストーリーだったのでこれくらい砕けた終わり方もいいと思う。でも佐伯の携帯は本当に着信が入ったのかどうか微妙。小島のメールは本当っぽい。実は二人で抜け出すために佐伯が一芝居打ったのでは?とも思ったのだが、小島の反応をみる限りでは違うっぽいんだよな、、、 まだまだ続きそうだ。

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