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ドコモとau

もう5年も前の本なのであまり期待せずに読んだが、携帯電話業界の歴史本という感じでは楽しめた。通信業界の圧倒的王者ドコモ、そしてそれを追うau。この両者の戦いの歴史をプロジェクトX風に綴っている。

今はソフトバンクモバイル(本書発売時はボーダフォンだった)や新規参入イーモバイルなんかも出てきて、さらにはWiMAXやLTEといった次世代技術も複雑に絡んできて、携帯キャリア戦線は予想不可能な状態。本書はそんな複雑な現況とは違って、もう少しシンプルだった時代の話だ。失敗と成功の繰り返し。やっぱり1社が勝ち続けるってのはあり得ないんだなぁ、と思った。

ドコモとau (光文社新書)
塚本 潔
光文社
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(「BOOK」データベースより)
携帯電話業界で圧倒的なシェアを誇るドコモをトヨタに譬えると、ドコモを追うauはさしずめホンダである。実際に、携帯電話業界における「ドコモとau」という構図は、自動車業界における「トヨタとホンダ」にあまりにも似ていることが多い。本書は、世界初の第三世代携帯電話(3G)のスタートに総力戦で挑むドコモと、独自の戦略でドコモを猛追するauにスポットを当て、当事者たちのインタビューを通して、いかに彼らが目の前に立ちはだかる壁を乗り越えてきたかを描いたものである。

携帯電話キャリア二大勢力、ドコモとau。巨大国営会社の電電公社から端を発したドコモに対し、京セラやトヨタといった民間企業が集まって組織化していったKDDI。その生い立ちはかなり違っている。ただ、本書では語られてないが、実はKDDI国際電信電話(KDD)という電電公社から分離した会社がルーツの1つとなっており、そこからもかなりのインフラ継承があったことを考えると似ている部分もあったりする。

本書では、このドコモとauの失敗と成功の歴史をドラマ風、プロジェクトX風に紹介している。

今や当たり前の3G携帯。この3G化推進にあたって両社とも大変な苦労をしていたようだ。比較的早い段階で3G携帯を安定的に普及させたように見えたauでさえも、その道のりは平坦ではなかった。

auは3G化をCDMA2000で推進してきたが、2G時代に一番頼りにしてきたモトローラのWーCDMA鞍替えに大混乱する。一時はWーCDMAへの鞍替えを本気で検討したが、大株主であるトヨタや端末開発メーカーをも巻き込んだ騒動の結果、最終的には当初予定していたCDMA2000で進めることを決断する。そしてこれによりauはクアルコムとのパートナー体制を築くことになる。

一方のドコモは3GのFOMA開発で予想外のつまずきを経験している。端末ソフトの不具合多発でスケジュールが遅延し、無線基地局側も通信が途切れるというトラブルが解消しない。やっとできた端末は電力消費が大きく、利用者に予備バッテリーを持たせるという苦肉の策でしのぐ始末。皮肉なことにiモードのヒットにより同社の2G端末が絶好調で社内的にも3Gへの移行が優先事項になっていたワケじゃないようだ。FOMAの普及に時間がかかったのは有名だが、内部ではいろいろな問題が同時多発的に起きていた。

そういえば先日、ドコモがMVNOで米市場再挑戦とかって記事を見かけたが、本書で過去の海外投資の失敗について触れていた。世界での地位確立に向け、海外の通信企業に投資し1兆5000億円もの減損処理をしたという。すごい金額だ。。。

気がついたら失敗事例ばかりだったので成功事例も書いておく。

auの方は着うた、FM携帯、パケット定額制、それからauデザインプロジェクトあたりが成功事例として紹介されていた。特にEVDOによるパケット定額制の成功事例の紹介では、EZウェブサービス開始当初にパケット方式でなく回線交換方式として失敗した事例との対比もあって、auの執念を垣間見た気分にさせられた。着うたやFM携帯はそれぞれレコード会社、ラジオ局からの売り込みによる成功で、時代の流れで下火になった業界が伸び盛りの携帯電話業界に目をつけた形だ。auデザインプロジェクトも一筋縄では行かず、紆余曲折を経ての成功だったことが分かった。

ドコモの方は900iシリーズの成功、特にiアプリによる高品質ゲームについての話だ。ドラクエやファイナルファンタジーといった人気ゲームのiアプリ移植を成功させる。プロジェクトは発売2ヶ月前で全くゲームにならない性能で、スクエア・エニックスも撤退をほのめかすほどのものだったが、開発現場が正月も休まず知恵を絞り、何とか発売にこぎつけた。デスマーチの現場が目に浮かぶ、、、まさにプロジェクトXだ。

この本が出た5年前はドコモもauも比較的好調な時で、だからこそバランスのいい内容にまとまったんだと思う。この後、携帯電話業界はカオス状態に陥る。ソフトバンクによる価格破壊、販売奨励金の見直し、ナンバーポータビリティのau一人勝ち、DoCoMo2.0の「そろそろ反撃してもいいですか?」という恥ずかしい失敗、KCP+開発遅延によるau失速、第四勢力イーモバイルの誕生などなど、本当にいろいろなことが起きている。これにWiMAXやLTEといった次世代技術やSIMロックフリーなんていう話まで絡んでくると本当にどうなるのか予想もつかない。ソフトバンクも勢いはあるが内部的にはかなり切羽詰ってるって噂もあるし、auだってこのまま低調なままでは終わらないだろう。ドコモは今はパッとしないが、何と言っても他にはない地力がある。数年後は今とは違った勢力図になっていそうだ。

その辺の事情について書かれていそうな本がもうすぐ発売になる。これ→『次世代モバイルストラテジー』 ソフトバンク系の出版社なのが気になるところだけど、ちょっと面白そう。


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