伊坂幸太郎初の新聞連載小説。正直前半のグダグダ感は新聞連載に向いてるんだろうか?とは思ったが、後半に進むにつれてスピード感が出てきて先が気になって仕方なかった。
そして、何よりも物語全体に散りばめられたたくさんの伏線が最後の最後で一つに収束する様はまさに伊坂作品の真骨頂だ。これだけでも読んだ価値があったと思う。
新潮社 (2013-06-26)
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主人公由紀夫は母1人父4人を持つ普通(?)の高校生。なんとその昔母が二股ならぬ四股をかけた結果、由紀夫は4人の父親に育てられることになった。4人の父はそれぞれ鷹、勲、葵、悟という名前で、鷹はギャンブル好き、勲は中学の体育教師、葵は元ホストでバー経営、悟は大学教授とそれぞれの職業(?)を持っていた。(「BOOK」データベースより)
みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。
さて、その4人の父親だが、普通は四股が発覚した時点で怒って別れるんじゃないかと思うが、知代と別れるくらいなら一緒に暮らそうということになったらしい。また、自分が父親じゃなかった場合を考え、DNA親子鑑定も決して受けようとしない。それほどまでに愛されている母知代は今回出張やら何やらでほとんど登場しなかった。
由紀夫の周囲も騒々しい。同級生の多恵子は何だかんだと由紀夫につきまとい、中学時代の友人鱒二は由紀夫をトラブルに巻き込んでしまう。そんなグダグダな前半はちょっと読むのもきついが、伊坂作品独特の会話のテンポに引き込まれ読み進めていく。特に多恵子が絡む会話は本当に笑える。個人的にヒットだったのは「マイマイでプラ理論」
鷹が「おいおい、何で俺みたいな胡散臭い男の言葉が信じられるんだよ」に対して「もしかするとあれですよ。見た目が怪しい人が、怪しいことを言うと、マイナスにマイナスをかけてプラスみたいな感じになっちゃうんじゃないですか。マイマイがプラ理論ですよ。」と多恵子。
ドッグレース場での鞄すり替え、牛蒡男軍団の因縁と富田林さんの荷物運び、空き巣事件、赤羽白川による紅白知事選、同級生小見川の不登校、鱒二の父親が元スポーツ選手、由紀夫の家に入った空き巣、昔由紀夫が見ていたテレビドラマ「ランナウェイプリズナー」、テレビのクイズ番組、幼い頃から由紀夫が言い聞かされてきた父親達からの言葉、、、これらが最後の最後で1つに収束する様はまさに伊坂幸太郎の真骨頂。
まさにジェットコースターのようなスピード感だった。
角川書店 (2013-09-25)
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