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東大落城―安田講堂攻防七十二時間

全共闘時代の天王山、東大闘争で警察側の現場指揮を執った佐々淳行氏の記録。著者は初代内閣安全保障室長で現在は危機管理の第一人者として活躍している。

内容(「BOOK」データベースより)

昭和44年1月18日、学園紛争・天王山の攻防の幕は切って落とされた。全共闘と機動隊の3日間におよぶ死闘を、警備幕僚長が克明に再現した衝撃のドキュメント。文芸春秋読者賞受賞。

 

 

 

全共闘時代や東大闘争って、ちょうど自分が生まれる直前の話で接点もなく、全く興味はなかった。ただ、映画『突入せよ!「あさま山荘」事件』がいい映画だったので、原作本『連合赤軍「あさま山荘」事件―実戦「危機管理」』を読みたくなり、それならこの本もチェックすべきだろうという流れで読むことにした。

そんなこんなで理解できるか不安に思いながらも読んでみると。。。んー、さすが佐々氏。本当に分かりやすく書いてくれる。全く知識がなかったのにいろいろと理解できた。といっても、全共闘時代って何だったの?という根本的な疑問がしっかり残るんだけど。。。どうやらこれは当事者でも謎らしい。ちなみに「ゲバ」ってのはドイツ語のゲバルト(Gewalt・暴力)から来ているとのこと。

読み始めたときは単純に学生が悪者ってイメージが強かったんだけど、実は堕落した大学当局側に原因があったと思うようになった。もちろん学生側の取った手段は許されるものじゃないんだけど。。。著者はそういった点を見事に中立的に書いてるので読んでいて気持ちいい。大学側のダメっぷりでも特に印象に残ったのはノイローゼ教授の話。完全に言動がイカれていて、哀れというか何というか、少しゾッとするようなおぞましさを感じた。

それにしても人頭大の石塊を地上数階の高さから落とせば大変なことになることくらい東大生じゃなくても分かるだろ。。。そんなことも分からなくなるほどの集団催眠状態だったのかと恐ろしく感じた。実際、東大闘争よりも前の日大での紛争での話だが、この石塊攻撃で警察側に殉職者が出ている。マジで怖い。。。

で、メインの東大闘争はというとこれがまさに攻城戦。城を攻める苦労がよく分かった。それでも機動隊が石塊や火炎瓶などの攻撃をかいくぐり、2日がかりで徐々に学生たちを制圧していく。あれほど凶暴だったゲバ学生も劣勢になると途端に大人しくなり、幼稚性が目立ってくる。なんだこりゃ小学生か?と思うほどの幼稚ぶりで、単なる甘ったれたガキのワガママ、ある意味東大生らしいとも思った。実際は他大学の学生がほとんどで東大生はほんの一握りだったらしいが。。。

ゲバ学生は無気力で堕ちた権威に反対していたのに、結局相手をしてくれたのは加藤一郎総長代行、林健太郎文学部長、秦野警視総監といった彼らにとっても尊敬に値する人達だった。複雑な思いで活動していた学生もいたんじゃないかと。

最後に個人的に一番参考になった箇所。それはの全体指揮官の佐々氏が全体を見渡せない現場にまで乗り込んでしまい、それを咎めた秦野総監の言葉。名言なので原文引用しておく。『あのなあ、佐々君、君はよく現場にいくようだが、時と場合によるぞ。第一線でやってると自分が何かやってるってえ充実感、あるだろう。機動隊員の人気もあがるだろう。だがなあ、警備課長が機動隊長と同じことやっててどうするんだ。全体を見渡せるとこにいなきゃしようがねえだろ?怪我の仕方、間違えるんじゃねえよ、隊員たちが火炎ビンや投石で傷つくとき、君は警備本部にいて政治的に、法律的に、マスコミ的に傷つくんだ』 んー、まさにその通りで管理職に就いたばかりの自分も肝に銘じたいと思った。