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ネタバレ上等ブログ

連合赤軍「あさま山荘」事件―実戦「危機管理」

史上最悪の人質立て篭もり事件と言われている”あさま山荘事件”で警察側の現場指揮官だった佐々氏の回顧録。関連知識や細かいエピソードが盛りだくさん、しかも織り交ぜ方が絶妙で映画とはまた違った楽しみ方ができる。

(「BOOK」データベースより)

死者三人、負傷者二十七人、動員された警察官のべ十二万人、報道陣六百人。テレビ中継の視聴率は史上最高を記録。厳寒の軽井沢の山荘で何が起きたのか?当時現場で指揮をとった著者のメモを基に、十日間にわたって繰り広げられた戦後警察史上最悪の事件の一部始終を克明に再現した衝撃のノンフィクション。

 

 

 

まず冒頭部分は映画と同じ展開。あさま山荘事件の前哨戦とも言える「さつき山荘」での銃撃戦から始まり、後藤田警察庁長官の「君、ちょっと軽井沢行って、指揮してこいや」の言葉で警備実施及び広報担当幕僚長となった佐々氏。

続く第2章、第3章では赤軍派や爆弾テロとの苦戦続きの記録が綴られている。まるで中東の爆弾テロのような壮絶シーンの連続で、自分が生まれた頃の日本がこんなにも不安定だったのかと驚かされた。

そんなこんなで警察側も爆弾テロ対策として新しい爆発物処理技術を必要とする。あさま山荘事件のほんの1ヶ月前の話。例の後藤田長官の「ちょっと君、欧米行ってな」で欧米への調査出張に行くことになったのが、これまた佐々氏。この出張の回想録は、警察内部でもお遊び出張と揶揄されながら、難しい調査をやり遂げなければならないという焦燥感溢れる内容。調査は困難を極めると思われたが、ワシントン市警の現場刑事の粋な計らいで「リクイッド・ナイトロージェン」なる”呪文”を入手。その呪文が解決への糸口となった。何か出来すぎな感じだけど、まぁなかなか楽しめた。

細かいエピソードが映画とは前後しながらも徐々に突入へと進んでいく。映画には出ていないエピソードで一番印象に残ったのは小学校教師の差別の話。日教組を後ろ盾にして、親が警察官や自衛隊の生徒を差別する話なんだけど、子どもを小学校に預ける親としてはかなりゾッとする内容。

で、いよいよ突入。現場は徐々にフロントライン・シンドローム(第一線症候群)に陥り、東京で騒ぐ警察庁に不信感を抱きながらも壮絶な戦いへと突き進む。そして、殉職者2人、重傷者20名以上を出しながらも人質を無事解放し、連合赤軍5人全員を検挙する。

警備の最高目的である人質の無事解放を果たし、さらには犯人全員の生け捕りも達成したのに、警察庁内部ではこの警備を大失敗と見る向きもあった。フロントライン・シンドロームの影響もあり、耐えかねず辞職を決意した佐々氏だったが、後藤田長官の電話で気持ちを切り替えた。この長官の電話はかなりグッとくる内容だった。

こんな大変な思いまでしたのに、この事件の3年後に日本赤軍が起こしたクアラルンプール米大使館占拠事件によって、内田警視射殺犯と思われる坂東國男が超法規的措置で釈放されている。佐々氏の文面からもその悔しさがよく分かった。