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ビッグバン宇宙論 (上)

 

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137億年を解明する3000年の想像と思考
 書名を聞いたときに、訳者があとがきで語っているのと同じく、”なんで、いまさら、ビッグバンを。サイモンシンが?”と私も思いました。 「暗号」や「フェルマーの定理」のように、過去あまり一般向け類書がな...
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さすがサイモン・シン様!「フェルマーの最終定理」で彼のファンになったものの、数学モノ以外は微妙だなぁ、なんて半信半疑で読んでみた。ものの見事に感動させられた。とにかく分かりやすい。かなり難しい内容なはずなんだが、これがまた分かりやすい。丁寧な解説というよりも分かりやすい解説といった感じ。また流れがスムーズなため、難しい内容が次から次へと出てきても何かすんなり読めてしまう。

(「BOOK」データベースより)

決闘で鼻を失った天文学者。聖書を精密に分析し、宇宙の年齢をはじき出した大司教カヤックで海を渡って亡命しようとした物理学者に、世界トップクラスの天体画像分析チームを率いたメイド、重度の難聴ながら歴史に残る発見を成し遂げた女性ボランティア…。創世神話からプトレマイオスコペルニクスケプラー、ガリレオらを経て、ついにはアインシュタインの先へ―。宇宙はどうやって生まれたのか?人類最大の謎に迫る有名無名の天才たちの苦闘を描く傑作科学ノンフィクション。

(「MARC」データベースより)

宇宙はどうやって生まれたのか? 人類最大の謎に迫る有名無名の天才たちの苦闘を描く科学ノンフィクション。上巻は創世神話からプトレマイオスコペルニクスケプラー、ガリレオらを経て、アインシュタインなどを収録。

 

 

 

上下巻で全5章+エピローグの構成となっており、この上巻は第Ⅰ章から第Ⅲ章までとなっている。上巻は、宇宙の中心だと信じていた地球が太陽の一惑星で、その太陽も天の川銀河の一恒星に過ぎず、さらに天の川銀河でさえも他の数十億という銀河のひとつに過ぎない、ということを知るに至るまでの人類の英知のリレーの物語。

まず第Ⅰ章は、地球中心説(天動説)から太陽中心説(地動説)への変遷の歴史。

驚いたのは太陽中心説はあの「それでも地球は動いている」と言ったガリレオ以前にも古くから存在したということ。古くは古代ギリシャからで紀元前5世紀のピロラオスに始まり、ヘラクレイデス、アリスタルコスへと受け継がれた。しかし当時の常識では太陽中心説は全く受け入れられず、その後1500年以上もの長期に渡りお蔵入りとなってしまった。

そして時は流れて16世紀。あのコペルニクス太陽中心説を唱える。当時の宇宙観に真っ向から対立する勇気は相当なものだったに違いない。ただ、理論は合っていたが軌道計算の精度が悪すぎたため、地球中心説を打ち崩すには至らなかった。ちなみに当時主流派だったプトレマイオス地球中心説は、周転円、導円、エカント、離心円などを組み合わせて複雑な計算をすることで、軌道計算精度は非常に高かった。理論は合ってないにもかかわらず。

その後のティコ・ブラーエのアプローチも興味深い。彼の宇宙モデルは地球中心説太陽中心説の折衷案。地球以外の惑星は太陽のまわりを回っているが、太陽は地球の周りを回っているという考え方。うーん。。。これほどまでに地球中心説が根強いとは。。。

そのティコ・ブラーエ、かなり詳細な観測データを持っていて、これが何とも偶然なんだけど、あのケプラーに受け継がれる。そしてケプラーが惑星の軌道を円から楕円に変更することでコペルニクスの計算精度の悪さを解消することになる。

こうしてやっとの思いで受け入れられた太陽中心説だが、まだ腑に落ちない点が残っていた。それは物が地球の中心に吸い寄せられること。つまり、全ての中心でもない地球に吸い寄せられるのはなぜかと。地球の裏側にいる人が落っこちないのはなぜなのかと。ニュートンによる重力理論が打ち出されていない当時としては納得できない点だったらしい。

つづく第Ⅱ章は、重力理論と光の話といったところか。主にアインシュタインが活躍する。

細かいことはさておき、物語が動くのはアインシュタインが光の進み方の秘密に迫った時だった。当時、光は光エーテルに対して一定の速度で進むものと信じられていたが、アインシュタインはそうではなく、光は観測者に対して一定の速度(約30万キロメートル毎秒)で進むのだと主張。ものすごい発想の転換だが、そこから思考実験を進めた結果、相対性理論というとてつもない理論が生み出されてしまった。それは絶対的なものと思われていた時間と空間を捻じ曲げてしまうほどの理論で、生みの親アインシュタイン本人ですら最初は悩んでしまったという。

その相対性理論だが、これは実は重力の考え方を表してる。リンゴが地球に向かって落ちるのを相対性理論で説明すると、地球の存在で時空にくぼみが生じることでリンゴはそのくぼみに落ちていくという説明になるらしい。何か難しいんだが、相対性理論によると「物質は時空に曲がり方を教え、時空は物質に動き方を教える」とのこと。

そして、当時としては突拍子もない理論だったわけだが、既に知られていてニュートンの重力理論では説明がつかなかった水星の近日点移動を説明し、さらに相対性理論から予測された太陽付近での星の見かけの位置のずれが観測されたことで相対性理論が受け入れられることになる。

しかしながらそこから導き出される不安定な宇宙像はアインシュタインでさえ受け入れられず、後に彼自身が人生最大の過ちとも認める宇宙定数なる項を相対性理論に組み込んでしまった。

上巻最後となる第Ⅲ章では、地球が属する天の川銀河の外にも天体があるのかどうか、すでに謎の天体として発見されていた星雲が天の川銀河の外にあるのか中にあるのか、といった大論争の話が中心となる。

ここからは観測技術の高度化の話が見逃せない。

セファイドは変光周期が長いほど絶対等級が明るいという性質があり、これを利用することでそのセファイドまでの距離を見積もる技術が発見される。さらに観測技術の高度化などで問題の星雲内にセファイドが発見されると、このセファイドまでの距離を計ることで星雲が天の川銀河の外にあるということが分かる。アンドロメダなどは、当時は天の川銀河内に浮かぶ星雲と思われていたが、この発見によってアンドロメダ銀河として定着することになる。

さらに、アインシュタインの宇宙定数に疑念を抱いたフリードマンルメートルによって膨張する宇宙像が提唱されると、しばらく後にハッブルが世紀の大観測を敢行する。分光とドップラー効果を駆使し、銀河の後退速度は銀河までの距離に比例するというハッブルの法則が打ち出されたことで、アインシュタインも考えを改め、膨張する宇宙が世に受け入れられる下地ができた。

この膨張する宇宙を逆にたどれば全ての銀河は遠い過去に1箇所に凝縮していたことを意味するが、これこそがビッグバンの証拠になりうるのだろうか、というところで上巻が終わった。終わってしまった。。。

内容濃すぎ。。。

あ、下巻はこちら