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ビッグバン宇宙論 (下)

 

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全ては前から全天に見えていた
 まず。”ビッグバン”という言葉を軽蔑の意味で使ったフレッドホイルの、報われないが価値のある人生は、映画のように印象的でした。 宇宙論を支える観測事実の全ては、人類が誕生した当初から、様々な波長と強...
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上巻(こちらを参照)同様、こちらもグイグイ引き込まれた。サイモン・シン、すごいです。ちょっと原子論的な話が多かったのが辛かったが、説明が分かりやすいので十分理解できた。それにしても地球にいながらにして、宇宙についてここまで調べ上げているのかと心底驚かされた。

(「BOOK」データベースより)

悠久の過去に生まれた宇宙誕生の証拠を探せ―。古代から20世紀のその瞬間に至る天才たちの知的格闘の歴史、壮大なるドラマ。

(「MARC」データベースより)

悠久の過去に生まれた宇宙誕生の証拠を探せ-。古代から20世紀に至る天才たちの知的格闘の歴史、壮大なるドラマを描く科学ノンフィクション。下巻では、ビッグバン宇宙vs定常宇宙の論争、パラダイム・シフトについて収録。

 

 

 

下巻は第Ⅳ章、第Ⅴ章、エピローグと続く。下巻は、いよいよ登場したビッグバンモデルが数々の難題をクリアし、ついには宇宙論の主流となるまでの軌跡を追う。

まず第Ⅳ章は宇宙論をいろいろな方向から研究する研究者たちの話。

この章では、一見、宇宙論とは無関係と思われる原子レベルの研究についての話が大半を占めた。苦手な分野なので尻込みしたが、やはりサイモン・シンの説明は素晴らしい。かなり理解できた。

この原子レベルの研究によって、恒星が輝く仕組みが核融合や各分裂などにあることが解明される。本書ではあまり触れてないが核兵器の威力や原子力発電の効率の良さを垣間見ることができた。

それから物質の状態には固体、液体、気体の他にもうひとつあるという話。この第4の状態とはプラズマのことらしい。名前は知っていたが改めて内容を理解した。うーん、勉強になる。一般に物質は温度が上がるにつれて固体から液体に、液体から気体に変化するんだけど、その気体がさらに温度上昇すると原子核と電子が離れた状態になるらしい。これがプラズマ状態だと。なるほど~、と思った。ちなみに水は0℃以下で固体、0℃~100℃で液体、100℃以上で気体なんだけど、10000℃以上にしないとプラズマ状態にならないらしい。想像つかない。。。

そして、この第Ⅳ章の終盤ではビッグバンモデルに最強の刺客、定常宇宙モデルが送り込まれる。両モデル陣営は対立を深めていくことになるが、その過程で実に興味深い話が出てくる。それは「ビッグバン」というネーミングについて。このキャッチーなネーミングは、実は対立する定常宇宙モデルの第一人者、フレッド・ホイルによって名づけられたとのこと。当然、本人は蔑称のつもりで使ったんだけど。。。ちなみにこの名前がつくまでのビッグバンモデルは「力学進化モデル」と呼ばれていたらしい。ホイル、グッジョブ! ちなみに彼は名付け親としてだけでなく、もうひとつビッグバンモデルに大きな貢献している。これがないとビッグバンモデルは認められないくらいの大きな貢献。詳細は後ほど。。。

続く第Ⅴ章では、永遠宇宙からビッグバン宇宙へのパラダイムシフトについて説明されている。

上巻の最後で登場したハッブルの法則によって表舞台へと出てきたビッグバンモデルだが、主流派になるにはクリアしなければならない課題がいくつも残っていた。特に大きな課題は、時間尺度の問題、元素合成の問題、元素の存在比の問題といったところ。

まずは時間尺度の問題について。この問題は何かと言うと、宇宙の年齢が地球の年齢よりも若いというパラドックスハッブルの測定によれば宇宙の年齢はざっと18億年程度。ところが地球上の放射性物質から測定すると地球の年齢は少なくとも30億歳程度らしい。

この問題は、観測制度の向上などで、ハッブルの銀河までの測定結果をバーデが、さらにサンディッジが訂正していくことで解決されていった。

次が元素合成の問題。これはビッグバンモデルだけの問題ではないが、水素とヘリウム以外の元素ができるにはとにかく炭素ができなければならないが、これがどうしても説明つかない、という問題。

炭素の生成には、2つのルートがあるんだけど、1つは、3個のヘリウム原子核が同時衝突する方法、もう1つは、2個のヘリウム原子核からベリリウム原子核を生成し、さらに別のヘリウム原子核が融合する方法。

前者は理論上は可能だが、3個の原子核が同時衝突なんて絶対無理ということで却下される。個人的にはそんなもんかなぁ?長い宇宙の歴史ではそういうことが起きてもいいんじゃないの?と素人的に思ったけど。。。

で、残された後者の方法だが、こちらも2つの事実が障壁となってしまう。1つはベリリウム原子核が非常に不安定で10億分の1秒のさらに100万分の1ほど(って一瞬とかってレベルじゃない。。。)で崩壊してしまう代物ということ。もう1つはベリリウムとヘリウムから炭素を作るには質量差から考えて、かなりの時間を必要ということ。つまり、これらの超一瞬と長時間という相反する事実がある限り、こちらの方法でも炭素生成は不可能とされてしまう。

ところが!またまた前述のフレッド・ホイルさんがやってくれました!ベリリウム+ヘリウムと同じ質量の炭素の励起状態が発見されたことで、質量差に起因する必要時間の壁がクリアされ、炭素生成が説明される。これによって、水素とヘリウム以外のあらゆる元素生成が説明付けられることに。さらにホイルにとって皮肉な結果になったのは、この発見がきっかけで3つ目の問題、元素の存在比の問題まで片付いてしまったということ。ホイルは最後まで定常宇宙モデルにこだわったけど、ビッグバンモデルにとっても必要な人でした。

その後、電波天文学の発達により電波銀河やクエーサーが遠方にしか見つからないことが分かり、ビッグバンモデルはさらに後押しされ、定常宇宙モデルはほとんど相手にされなくなっていった。

ほぼ主流派になりつつあったビッグバンモデルにとって残された課題は、ビッグバンの名残とも言われている宇宙マイクロ波背景放射(CMB放射)とその密度差の検出だった。CMB放射は1964年に検出され、CMB波の密度差は本当に最近のことなんだけど1992年に検出され、ここにビッグバンモデルが正しいことが証明された。

さてさて、いよいよエピローグ。まぁ、いろいろ証明されたけど、ビッグバンモデルにもまだまだ謎が残っていると。。。一番の究極の謎は、ビッグバン以前は一体何が???ギャー、これ以上は無理!

で、ここまで読んで重大な事実を知った。それは、ビッグバンは空間の中で何かが爆発したのではなく、空間が爆発したのだと。そして、同様に時間の中で何かが爆発したのではなく、時間が爆発したのだと。つまり、空間も時間もビッグバンの瞬間に作られたものなんだということを。。。参りました。。。

壮大な話でした。。。感無量。