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すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER

妃真加島という孤島の研究施設を舞台にした密室殺人事件のストーリー。理系ミステリィ作家として有名な森博嗣氏のデビュー作品で、犀川助教授とその生徒の西之園萌絵の師弟コンビが事件を追う「S&Mシリーズ」全10作品の第1作目。

理系的なトリック要素は斬新で、犀川助教授と西之園萌絵の関係がどうなるかも気になるところ。シリーズ全10作読破を目指そうと思わせる作品だった。

あと特徴的なところとして、工学系の慣用表現にならってカタカナ語尾の長音符号をつけない表記を多用していること。「エレベーター」→「エレベータ」は分かるが、「クーラー」→「クーラ」、「スプリンクラー」→「スプリンクラ」、「コーナー」→「コーナ」あたりは違和感を感じる。あ、でも「ヘリコプター」はそのままだった。これは微妙に「ヘリコプタ」もありかなぁ、と。。。そういえば、昔、「コーラ」を「コーラー」と書いている食堂があったような。。。どうでもいいか。

 

S&Mシリーズのエントリーはこちら

すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER - zakky's report

冷たい密室と博士たち―DOCTORS IN ISOLATED ROOM - zakky's report

笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE - zakky's report

詩的私的ジャック―JACK THE POETICAL PRIVATE - zakky's report

 

 

すべてがFになる (講談社文庫)
森 博嗣
講談社
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(「BOOK」データベースより)
孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。

  


14歳の時に両親殺害の罪に問われ、孤島の研究施設に幽閉状態となった天才博士・真賀田四季。彼女が幽閉されている部屋は出入り口が1箇所のみで、その出入り口もビデオ録画されている。そんな完全密室状態の部屋から両手両足を切断されウエディングドレスを着せられた死体が発見される。

どう考えても複数の人間、もしくは施設の人間全員が共謀しないと無理じゃないかと思えた。。。そんな完全犯罪が理系的にきっちり解明されてしまうのだから驚き。しかも、なるほどなぁ、と思わされるトリックばかり。残念だったのは新藤所長の殺害について。殺される側の新藤所長がどういう行動に出るかによって結果が左右されてしまいそうで、これだけは不確定要素が介入しているように思えた。

ちなみにタイトル『すべてがFになる』の「F」が16進数のことだというのは、冒頭部分で真賀田四季が数字の話の中で「BとDも~」なんて話してるところからも気がついてしまう。恐らくコンピュータ関係の仕事をしている人ならすぐピンときちゃうんじゃないかと。ただ、それがシステムOS内の時計カウンタとは結びつかないので、16進というだけではトリックを見破ることはできない。ただ、このOS自体を真賀田四季が作ったものだと考えれば、何となく最初から組み込まれていたものだと考えることもできる。

それからデジタルビデオの録画ファイルのトリックも「なるほど~」と唸らされた。1分単位で分割された録画ファイル、システム時刻からファイル名をつける、といった条件からシステムエンジニアならピンと来ちゃうかも?と思ったが、残念ながら自分にはピンと来なかった。。。結局このトリックこそが完全密室犯罪の肝になっていて、これが解ければ根拠を持って犯人に辿りつくことができるようになっている。この辺がスゴイしニクイ。

あとは犀川助教授のセリフが随所でグッと来る。現実とは何か?という萌絵の問いかけに対しては、「現実とは何か、と考える瞬間にだけ、人間の思考に現れる幻想だ. 普段はそんなものは存在しない」と答える。また、思い出と記憶の違いについては、前者は全部記憶しているが後者は全部は思い出せないと。うーん、なかなかグッと来るものが。それから、人と人との関係や人の中の複数の人格について、日本は液体の社会で欧米は固体の社会であると説いている。日本では仲間に”混ぜて”もらい、アメリカではJoinする(つながる)となるので、液体と固体なのだと。面白い考え方だなぁ、と思った。

もう一つ、思わず「へぇ」って唸らされたトリビア的な話があった。それは高層ビル建設で最上階に設置された大型クレーンの撤去方法について。これは自分よりも少し小さいクレーンを吊り上げて、そいつで自分自身を下ろしてもらう。残ったクレーンはさらに少し小さいクレーンを吊り上げて、、、といった感じで繰り返し、最終的には人力で運べるサイズのクレーンまで繰り返すということでした。なるほど~、と思った。

ということで、本当にいい作品だと思うんだけど、どうしても許せないというか解せないというか、なんか後味が悪くてたまらないのが、真賀田四季が自分の娘を殺したこと。うーん、これさえなければ完璧だったんだけど、これがなければ完全犯罪は成立しないしなぁ。。。とにかく後味がスッキリしなかった。

巻末の解説によれば、本作品は元々5作完結シリーズの4作目として書かれていたが、第1回メフィスト賞に相応しい作品ということで、この作品がシリーズ第1作になったという。その結果、シリーズ全体を再構成した関係でさらに5作品を書き足し、現在の10作完結シリーズとなったらしい。この経緯は本シリーズを読み進めていく上で留意しておいた方がいいとのこと。そういえば本作品の最後で悠然と姿を消した真賀田四季が最終作品で再登場するらしい。とにかくあと9作品が楽しみだ。