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ネタバレ上等ブログ

グラスホッパー

伊坂幸太郎作品、ちょうど読了10作品目。殺し屋バトルロイヤルに巻き込まれた普通の青年の話。

妻を理不尽に轢き殺され、その復讐のために教職を捨てて悪徳非合法企業≪令嬢≫に潜入した主人公の鈴木。相手に自殺をさせる特殊能力を持つ自殺専門の殺し屋、鯨。若くて殺し屋の癖によく喋るナイフ使いの蝉。

この3人の視点に次々と切り替わる多視点型一人称小説。伊坂得意の時間軸ずらし技は少ししか出ないのでそれほど混乱せずにスムーズに読めた。手に汗握る予測不能な展開もなかなか良かったと思う。

ただ、最後の真相説明が複雑すぎて、ちょっと、んー???って感じだったのが残念。

 

 

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

 

 

 

 


(「MARC」データベースより) 復讐。功名心。過去の清算。それぞれの思いを抱え、男たちは走る。3人の思いが交錯したとき、運命は大きく動き始める…。クールでファニーな殺し屋たちが奏でる狂想曲。書き下ろし長編。

 


鈴木の妻を轢き殺した≪令嬢≫社長の馬鹿息子が車に轢かれて死ぬことで物語が動き出す。どうやら『押し屋』と呼ばれる殺し屋に押されて車に轢かれたらしい。現場に居合わせた鈴木は≪令嬢≫幹部の比予子に命令され、『押し屋』を追跡することになる。

で、この冒頭で死んだ≪令嬢≫社長の馬鹿息子。こいつの酷さにはちょっと飽きれた。飲酒運転で何人轢き殺しても親の力でお咎めなし。部下をけしかけて、わざと人を轢かせたり、通学中の生徒の列に車を突っ込ませたりと、とても正気の沙汰とは思えない。ちなみに親父もスゴイ。この後、『押し屋』がなかなか捕まらないことに苛立って、社員を何人か射殺している。

で、何とかして『押し屋』の家を突き止めた鈴木だったが、幸せそうな家庭を持つ彼が本当に『押し屋』なのか?と疑問を持ち、≪令嬢≫からの連絡要請を無視して、『押し屋』判別のために接触を試みる。子供の家庭教師を売り込むという訳の分からない演技で『押し屋』宅に上がりこむ鈴木。『押し屋』は槿(むくげ)と書いて”あさがお”と名乗る。

一方、蝉と鯨の2人の殺し屋もそれぞれの思惑で『押し屋』を追うことになる。蝉は≪令嬢≫が追っている『押し屋』を先に殺すことで名を上げようとする。鯨は『押し屋』に先を越された過去を清算するために『押し屋』を殺そうとする。

そんな中、報告無視に痺れを切らした≪令嬢≫が鈴木を拉致し、拷問で『押し屋』の居場所を吐かそうとする。そこに現れたのが蝉だ。蝉は≪令嬢≫から鈴木を奪い、鈴木に『押し屋』の家を案内させようとする。と、そこに今後は鯨が現れる。鯨と蝉が直接対決している隙になんと今度は槿が現れ、鈴木を救い出す。

その後、槿が衝撃の真相を告白をする。槿はやはり『押し屋』だった。だが、そもそもなぜ≪令嬢≫社長の馬鹿息子を殺したのか、から始まる全真相はかなり複雑で、ここはもう少しシンプルにして欲しかった。。。

エンディングはこの事件の半年後。結局、鈴木は復讐も遂げられず、悶々とした生活をしていたが、亡き妻との出会いの場所を訪れ、再出発を誓った。何かこの切なさ、やるせなさとちょっとした爽快感が『ゴールデンスランバー』のエンディングに近い感じがした。

そういえば鈴木も『ゴールデンスランバー』の主人公、青柳に似た雰囲気を持っている。なんか飄々として頼りなさげで、周りに流されやすそうにも見えるが、実は芯が通ってしっかりしている。

まぁ、この作品、他にもいろいろ見所があって、『オーデュボンの祈り』とリンクする部分がかなりある。足に障害を持つ田中や神様のレピシの話などが、ストーリーの重要ポイントになっていたりする。

あ、それから映画監督のガブリエル・カッソ。伊坂作品にはよく登場する監督だが、その作品描写は初めて見た気がする。『抑圧』という作品なんだが、貧しい新聞配達の青年が店主に操られ、精神を蝕まれていくというちょっと暗くて絶望的な映画。正直あんまり観たくないと思った。。。というか、本当にある作品なのかな???

 

 

グラスホッパー

グラスホッパー

 

 

マリアビートル (角川文庫)

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