ザキレポ

ネタバレ上等ブログ

殺戮にいたる病

★★★★★
孫子 武丸
価格
アッと お ど ろ く
それにしても我孫子さん。器用な人だわwこの時系列バラバラの使いかたは巧いとしかいいようがない。まず9割の人は騙されるだろう。ただ難点をあげるとすれば、性描写が生々しいので途中で読むのをやめたくなる所...
あまなつShopあまなつで見る同じレイアウトで作成
我孫子武丸氏の代表作品。こ、これは、、、スゴイわ。。。 読了後、あれれ、どーいうこと?って感じになって、よーく考えてみると、なるほど〜、と唸ってしまう。絶妙すぎる。『イニシエーション・ラブ』も衝撃だったが、こちらも負けてない。 ちょっと猟奇ホラー描写がキツイけど、そこはガンバル価値あります。ただ、つい先日死刑執行された宮崎勤死刑囚の連続幼女誘拐殺人事件と思われる事件についても何度か出てきたり、ちょっとタイミングが微妙でした。。。これ、初出が宮崎事件の3年後、1992年なんですね。

(「BOOK」データベースより) 永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

以下、ネタバレ注意! まず最初にエピローグを持ってきているところがウマすぎる。結末は最初に示されていて、そこに疑いの余地はないと思わせる。しかし、最後まで読むと全く違った結末に見えてきます。これは衝撃でした。 読者は3つの視点でストーリーを追うことになります。知人を殺害された元警部樋口の視点、連続猟奇殺人犯である蒲生稔の視点、息子が連続殺人事件の犯人ではと疑う蒲生雅子の視点、の3つ。この視点の設定で読者のミスリードをうまく引き出しつつ、時系列をずらすことでそのミスリードを完全なものにしています。 樋口視点は1月から、稔視点は前年10月から、雅子視点は2月から、それぞれスタートしており、各章でも3視点の日時はバラバラになっています。一番先を進んでいるのが雅子視点で、それを追うように進むのが樋口視点、第6章くらいで樋口視点が雅子視点に追いつきます。稔視点はスタートも前年からと遅く、さらに各事件を詳細に追うために進行も遅め。なので終盤の第9章でやっと雅子視点と樋口視点に追いつきます。そして最終第10章でやっと3つの視点がほぼ同時進行となります。 で、この時系列のズレにミスリードの秘密が隠されているのかと、とにかく何度も何度も矛盾チェックをしながら読みました。。。が、この時点でもう著者の術中にハマっていたわけです。はい、ネタバレしますと、時系列のズレには全くトリックはありません。一番のミスリードポイントは蒲生稔と蒲生雅子の関係です。 ただし、先にも書いたとおり、蒲生稔は間違いなく犯人だし、蒲生雅子は間違いなく息子を犯人と疑っているワケです。これが絶妙な騙しのポイントで、蒲生雅子の息子が犯人であるとは一度も書かれていないし、もっと言ってしまえば蒲生稔は蒲生雅子の息子なんてこともどこにも書かれていないワケなんです。もちろん、稔と雅子はれっきとした家族なんですが親子じゃないんですね。。。夫婦だったんです。 もう少し詳しく書くと、稔と雅子はマザコン夫と息子溺愛妻という冷え切った仮面夫婦です。稔は妻や子どもには目もくれず実母ばかりを見ているし、一方の雅子は息子ばかりを見ている。この見ている方向が全く違うのに、視点描写では絶妙に固有名詞を伏せているため、読者はそのことに気がつかない。稔視点でいう母とは、稔の実母で雅子の義母なのだが、読者は雅子だと思ってしまう。逆に雅子視点でいう息子とは、信一という長男なんだけど、読者は稔だと思ってしまう。この実母と信一の存在が最後の最後まで隠されているため、最後にあっと驚いてしまう。なかなかアッパレでした。 以上の叙述トリックが本作品の肝なんだけど、3視点の時系列ずらしもかなり絶妙。稔視点では約1ヶ月間隔で起きる連続殺人を追うために速いペースで時間が進む。逆に雅子視点では息子が犯人ではと疑い始めてからの葛藤の日々を追うためになかなか時間が進まない。樋口視点は知人が殺害された事件を基点として、やはり若干遅い進行だ。これらのペースの異なる3視点が最後に1つに重なり、あっと驚く結末へと導く。 稔の猟奇っぷりもスゴイもんですが、雅子の溺愛ぶりもスゴイというかヒドイ。息子のマスターベーションの回数までチェックってあんた。。。で、ティッシュをチェックしてたら何か赤黒い液体の入ったビニール袋を見つけてしまい、息子が猟奇殺人の犯人じゃないかと疑いだすワケです。その息子への情熱を少しでも夫に向けていれば、もしかしたら夫の犯罪に気づき、信一は父親を疑って隠密行動していただけであることが分かったかと。そうすれば、信一は稔に刺されることもなかったんだろうなぁ、、、と。そういえば、息子信一は死んじゃったが、娘の愛はどうなるんだろう。。。不憫すぎる。 あと稔が事件を起こす時に必ず聞く岡村孝子の唄『夢をあきらめないで』って何か意味があるのだろうか? 関係がよく分からなかったが、しつこいくらいに歌詞が出てきたので何かあるんだろうな。