★★★★☆
第139回直木賞受賞作品。
うーむ、何か捉えどころのない恋愛小説。気を抜くと何も起きず、いや、何が起きたのかに気づかないで終わってしまう、そんな儚くて薄い感じの恋愛小説だ。
島で夫と静かに暮らしていた女が、ある日島にやってきた男に知らず知らずのうちに惹かれ、二人は切羽へと向かっていく、というストーリー。
切羽とは書籍帯の説明によれば、それ以上先へは進めない場所のこと。
うわー、何かこれだけだと、『
失楽園』のような泥沼不倫小説を想像してしまうが、全然そんなんじゃない。島の美しい情景や島特有の閉鎖的で気ままな雰囲気、そういった中でのゆったりあっさりした恋愛ストーリーだ。
ただ、切羽の意味を書籍帯だけで捉えてしまうと、本書の本当の意図は見出せない。ここがうまいなぁ、と思った。
(書籍帯より)
静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。やがて二人は、これ以上は進めない場所へと向かってゆく。「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所のこと。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密な筆に描ききった美しい切なさに満ちた恋愛小説。
とある島で小学校の養護教諭をしている麻生セイ。画家である夫の陽介と二人で穏やかに暮らしている。
島は連絡船でのみ本土とつながっている閉鎖的な環境。だが、だからこそ島の人同士の結束というか仲間意識は強い。花見や海開きなどは島民みんなが集まる一大イベントだし、島の人同士で性に関する茶化し合いがあったり、気を許した同士のおおらかさがそこにはある。
そんな静かな島に一風変わった新任教室、石和聡がやってきた。着任早々の入学式に遅刻したり、どこか飄々とした雰囲気で、そんなんでこの島でうまくやっていけるの?と心配になってしまうタイプだ。
また、セイとは逆にフェロモン全開の女教師の月江、月江の交際相手で月に数回彼女に会いに島にやってくる妻帯者の本土さん、セイには憎まれ口ばかり言うが、実は心優しいお婆さんのしずかさん、こういった登場人物たちも物語に色を付けている。
最初は島で浮くような存在だった石和だが、徐々に変わっていき、島になじみ始める。そんな石和にセイも惹かれていく。セイ自身は気づいていないが、しずかさんや月江はもちろん、夫の陽介もが敏感にそれを察している。
結局、セイと石和の間には何も起きず、その周囲が慌ただしく動き回るものの結局最後は全てが元鞘に収まっているという不思議な話だ。
あ、書籍帯にある切羽の説明(それ以上先へは進めない場所)だけだと、本書の意図は掴めない。セイが最後に石和に話した切羽の説明(トンネルを掘っていく一番先のこと。トンネルがつながってしまえば切羽はなくなる。)が本書の意図に合っている。
つまり、切羽ってのは何かもう後がない、って感じなんだけど、実はまだギリギリ引き返せるところってワケで、なのでセイはドロドロの不倫劇を演じずに済んだってワケだ。 うーむ、奥が深い。
あ、切羽って、普通は切羽詰るとかで使うように、「せっぱ」って読むと思うんだけど、この本では「きりは」って読んでいる。何か意図があるのかな??? この意図は分からなかった。