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封印作品の闇

やっと読めた、、、『封印作品の謎』の続編。前作では作品自体に問題のあった例を取り上げていたが、今回は作品自体には何の問題もないのに、作品とは離れたところの事情で作品丸ごとが封印されてしまったものを取り上げている。

分の悪い側が取材に応じないだけでなく業界全体が隠蔽しようとしていて、業界的にはタブー視されているネタが多い。それだけに取材は困難を極めたと思うが、なかなか読み応えのあるルポに仕上がっている。




封印作品の闇―キャンディ・キャンディからオバQまで (だいわ文庫)
安藤 健二
大和書房
売り上げランキング: 215,528


(「BOOK」データベースより)
「失われた物語」は、まだ存在する。あらゆる“名作”が発掘・復刻され尽くされつつあるなか、それでもいまだ目にすることができない一部の作品たち。長大なシリーズとして多くの人々の記憶に残りながら、その一部だけでなく、シリーズ全体がなかったことにされている物語。ほんの数年前まで再放送されながら、今ではフィルムが存在するかどうかすら確認できない物語。そして、国民的知名度を誇りながら、誰も知らないあいだに消されていた物語。彼らは、なぜ「封印」されたのか…?戦後の特撮、マンガ、アニメを中心に関係者の証言を徹底的に集め、その“謎”に迫る。大反響を呼んだ新世代ルポルタージュ、待望の第2弾。

第1章「引き裂かれたリボン」
キャンディ・キャンディ』の封印にまつわる話。って、あれ封印されてたんだ、というのが第一印象。これは原作者水木杏子と漫画家いがらしゆみこの対立の結果、封印されてしまっていた。それまで名コンビだった二人に何があったのだろうか?

事の発端は講談社との著作権契約の解除だ。第三者の著作権管理者が不在となってしばらくして、商品化には水木いがらし双方の合意が必要なのにいがらしが無断で商品化に動いたという。

プリクラから発覚したいがらしの暴走は止まらず、法廷闘争へと泥沼化してしまう。最高裁で水木側の完全勝利に終わったものの、そもそもの発端だった詐欺まがいの行為が宙に浮き、いがらし側からの謝罪がないために水木は商品化を決断できずにいるとのこと。

ちなみに章タイトルの『引き裂かれたリボン』は大岡裁き子争いの話(母だと主張する二人の女に子どもを引っ張り合わせる話)に結びつけているが、これは水木にはかわいそうな気がした。

それから本題とはずれるが、講談社が始めた原作者システムの話は興味深かった。今でも講談社の週刊少年マガジンなどは亜樹直氏(複数のペンネームを使用)を初めとした原作者が活躍している。

あ、それからキャンディの絵がいくつか掲載されてたんだけど、これってかなり萌えキャラでは??? 個人的にはいわゆる萌えキャラよりもよっぽど萌えてしまった。。。

第2章「ウルトラとガンダムの間に」
本章では『サンダーマスク』という特撮ヒーロー番組の封印を追っている。

封印の理由について噂となっている説をしらみつぶしに検証していく著者。と、その過程で『機動戦士ガンダム』で知られる創通エージェンシーの名前が。。。何と創通エージェンシーの前身会社である東洋エージェンシーが権利問題に関与していたらしい。というか、共同で制作したひろみプロダクションから半ば強引にサンダーマスクの権利を奪っていたというから驚きだ。

当初はしらばっくれて放映権を販売していた創通エージェンシーだったが、最近になってやはりマズいって思ったのか、地方局などが再放送放映について打診しても何だかんだ適当な嘘をついては話をポシャらせていた。どうやらこれが封印の真相のようだ。例によって創通エージェンシーが取材に応じないため、本当のところは分からないが、まあ当たらずといえども遠からず、といったところかと。

第3章「悲しい熱帯」
次なる封印作品は、藤子・F・不二雄作品『ジャングル黒べえ』。し、知らね~。。。ちなみに残りの第4章、第5章も藤子不二雄がらみだ。

結局のところ、封印理由は結局分からずじまいで、業界的にはこの話をすることもタブー視されてるようだった。

黒べえの風貌から黒人差別による封印である可能性が高いが、関係者が一様に口を閉ざしてしまうのは不気味だ。

黒人差別による封印だとすれば、糾弾元として一番可能性が高いのは「黒人差別をなくす会」だ。あの『ちびくろサンボ』を一時期絶版に追いやり、タカラやカルピスの黒人ロゴを闇に葬り去った実力団体だ。

これほどの影響力を持った「なくす会」が実はとある家族による構成員3名の団体だったというのは驚き。当時絶大な力を誇った部落解放同盟がバックについていると勘違いしたメディアが「なくす会」から抗議を受けるや、ろくに議論もせず自首規制をしていた。その結果、漫画などの出版物からは黒人自体の存在がなくなったという。

で、この章で言われていたのは、差別を糾弾する人にこそ、実はその対象を差別的に見下しているんじゃないかということ。もちろん当時者の抗議は当てはまらないが、この「なくす会」をはじめ、当時者じゃない糾弾者もいるわけで、内容を理解せずに見た目だけで抗議してる彼らこそが実は差別の第一人者では?という意見は納得できた。

で、話を黒べえに戻すと、結局黒べえ自体が「なくす会」から抗議を受けていたのかは不明のまま。出版元の小学館も藤子F作品の管理会社も、そして「なくす会」も、とにかく関係者が取材に応じないからだ。何があったかは分からないが、少なくとも結果として一つの作品が封印されているわけだから、封印させた側も封印した側も、それについての説明責任があるんじゃないかと思った。

第4章「怨霊となったオバケ」
次は藤子不二雄の代表作『オバケのQ太郎』の封印にまつわる話。これまた業界的にはかなりタブーな話らしいが、封印されてたなんて全く知らなかった。

前章の『ジャングル黒べえ』同様、封印理由は明かされておらず、ファンの間では諸説ある噂だけが流れているようだ。
黒人描写説、権利問題説(2種類)、差別表現説、教育問題説、ニーズ説など、可能性のある封印理由について、ひとつひとつ論理的に検証しているのは素晴らしい。その結果、可能性として残されたのは、藤子・F・不二雄藤本弘氏)と藤子不二雄A(安孫子素雄氏)の権利問題説だった。

二人はコンビ解消後も仲がよく、少なくとも藤本が亡くなるまでその仲は変わらなかったという。ただ、二人はそれぞれ家族を持っており、彼らが稼げば稼ぐほど、二人の友情だけでは解決できない問題が生じてしまっていたようだ。

結局、この章では真相に至らなかったが、著者の推測としては、ドラえもんという大ヒット作の権利を持つ藤本側(家族?)の意向で『オバケのQ太郎』が封印されているんではないかということだ。

二人は分裂するかなり前から藤本が『ドラえもん』、『パーマン』、安孫子が『忍者ハットリくん』、『怪物くん』といったように作品ごとに担当を分けており、事実上の合作は『オバケのQ太郎』が最後だったらしい。

基本的には作品単位で権利を分ければいいので大きな混乱はなさそうだ。しかし大ヒット作ドラえもんのクリーンなイメージを守るという観点からすると、非常に難しい問題が見え隠れしてくる。

確かに自分が小学生時代に読んだ『魔太郎がくる!!』は衝撃的だった。藤子不二雄作品ということで読んだんだと思うが、いじめられっ子の主人公が「うらみはらさでおくべきか!」というセリフを言うと復讐モードとなり陰湿で残虐な復讐を遂行するというかなりダークな作品。命までは奪わなかったと思うが、再起不能くらいまでは追い込んでいたかと。あれ?殺してたっけかな??? 確かに復讐される側はムカツク奴ばかりなんだけど、今にしてみればあれってどうなの?って感じてしまう。『オバケのQ太郎』よりもかなりダーティな感じがする。で、例によってこちらも藤子不二雄A作品だったりする。

で、最初に出した単行本では取材はここまでで終わっている。が、後に出た文庫版には『オバケのQ太郎』に関する追加取材の結果が第5章として掲載されている。

第5章「浮遊霊の行方-文庫版のための新章」
文庫化にあたり追加された章で、前章の『オバケのQ太郎』取材の続報となっている。単行本では確証がないのと出版社の意向もあって微妙な言い回しで終えていたが、後の取材である程度の確証が得られたようだ。

結局、「オバケのQ太郎」の封印の真相は、亡くなった藤本の妻の意向だった。理由はいろいろあるが、どうやら藤子スタジオの社長である安孫子の姉との確執があるらしい。この安孫子の姉が結構強烈らしく、藤子スタジオで絶大なパワーを持っているとのこと。

そしてどうやら安孫子の姉が藤子スタジオの実権を握ったことが、結果的に二人の分裂につながったようなことが書かれている。

で、結局のところ、オバQの復活は相当難しい、絶望的だということで結論づけられている。特に思い入れがある作品じゃないのでどうでもいいんだけど、著者の取材にかける執念には感服した。


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