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ネタバレ上等ブログ

東京島

32人が無人島に漂着するサバイバルストーリー。これだけならなんてことない普通の話なんだけど、この32人のうち女性がたった1人という設定が興味を引く。

 実はこれは実際に昭和19年に起きたアナタハン事件がモチーフになっており、この事件では1名多い33人だったが、女性は同じく1人だったとか。

 アナタハン事件の方は、唯一の女性だった20代の和子を男達が奪い合う構図となり、32人の男のうち帰国できたのは19人だったという。ちなみに和子は先に1人で帰国している。

 さて、こちらの『東京島』の方は一体どうなるのか? Amazon.co.jpのレビューを見るとかなり酷評されてるけど、人物描写とかがうまいし、物語が本当に予想外に展開するので個人的には楽しめた。予想外過ぎてダメって人が多そうな気がする。

 

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(「BOOK」データベースより) 32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か?いつか脱出できるのか―。食欲と性欲と感情を剥き出しに、生にすがりつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読者の手を止めさせない傑作長篇誕生。

東京島と呼ばれるその島にいる人間は日本人と中国人に大別される。日本人集団は唯一の女性である清子と彼女をとりまく男達がそれぞれの役割を持ち、オダイバと呼ぶ海岸を中心にいくつかの集落に分かれて生活を営んでいた。一方の中国人集団はホンコンと呼ばれ、リーダーのヤンを中心に結束し、狩猟や道具作りなどサバイバル生活にいち早く順応していた。さらにそのどちらにも入れない嫌われ者のワタナベはトーカイムラと呼ばれる謎のドラム缶廃棄場で暮らしていた。

 それにしても参ったのは唯一の女性の清子が40代後半だということ。しかもこの女、非常にずる賢くて、とにかく自分が一番大事、自分さえよければ平気で人を裏切るし、時には権力者に卑屈に接する。自分が唯一の女性という稀少価値を活かし、とにかく生き延びようとする。色気も全くなし。

 最初はちょっとひいたが、この生への執着がないとサバイバルできないのも事実だ。

 興味深いのはホンコン達と日本人の適応能力の差。日本人が最低限の食事をするだけで余力を文化活動にまわす一方でホンコン達は本格的な狩猟活動に精を出し、かなりいいもの(といってもトカゲとかだけど、、、)を食べていた。

 島からの脱出についても日本人達は救助を待つスタンスだったが、ホンコン達は自らの手で筏を作り自らの力で脱出を企てる。

 そのホンコン達の脱出計画が安定していた島の生活に亀裂をもたらすことになる。

 清子はホンコン達の脱出の話を聞くと、日本人の誰にも相談せずに一緒に着いていく。しかし島を囲む海流は非常に強く、即席の筏では脱出できなかった。何日にも渡る大海原での漂流の後に辿り着いたのは元の東京島だった。ホンコン達は仲間を半分失い、清子も命からがら戻ったが、裏切り者として虐げられる結果に。清子の不在中に森郡司が日本人の圧倒的リーダーに君臨していた。そして、森の号令の元、清子の富と権力の象徴だった家は荒らされ、持ち物は軒並み盗まれていた。

 ここから島の情勢は二転三転する。男同士で夫婦生活を営む者が出たり、極限状態で気が触れる者が出たり、二重人格になる者が出たり、、、ワタナベはさらにイカれてくるし、島全体が絶望的な閉塞感の中、極限状態に陥っていく。絶対的リーダーだったはずの森が出し抜かれたり、比較的まともだったオラガが狂ったり、、、 そんな中、まず東京島脱出を果たすのは何と嫌われ者のワタナベだった。嫌われ者故にたった一人でトーカイムラに追いやられていたのが功を奏し、不法投棄に来た不法船に拾われたのだった。そして当然のことながら、ワタナベは他の島民の存在を隠して自分一人だけで脱出してしまう。

 正直、このワタナベの脱出劇は意外だった。食料が全く無いワケでもないのに、貴重な紙を食べたり、変な発疹が身体にできたりして、ちょっと人間的に壊れ始めてたので、このまま息絶えるものだと思っていた。脱出シーンもてっきり死に際に幻を見てるんだと思っていたが、何と生きて脱出成功してしまった。

 さらに終盤には何とフィリピン女性の一団が漂着する。彼女らのボートをホンコンらが修理し、いざ脱出という時にフィリピン女性チームとホンコン達の中で叛乱が起き、リーダー格のマリアとヤンが置き去りとなる。その混乱に乗じて脱出に成功するのが清子だ。

 実は清子はこの時、既に双子のチキとチータを出産しており、女の子のチキと共に脱出を果たす。そして島に取り残される側は人質として男の子のチータを奪う。チータを奪えば、清子は必ず我が子を取り返しにくるはずだ、という考えだったのだが、清子に母性は全くなかった。

 衝撃のエンディングは、清子の脱出劇から10年以上経過していた。チータは森とマリアに王子として育てられ、島のリーダーの跡継ぎになっていた。何と島には王国が出来上がっていて、チータ以外にも子供達がいた。マリアを始めとしたフィリピン女性が数人取り残されたため子供が増えたわけだ。やはり女性は偉大だ。

 ちなみに島民の間では清子とチキは死んだものとして弔っていたが、ホントにそう思っていたのかどうかは謎だ。それからヤンもひっそりと島で生きていた。はっきりとは書いてないが、どうやらチータはヤンの子らしい。つーことはチキもだが。

 そして清子とチキだが、何と日本に戻り、豊かな生活を送っていた。清子は腕利き占い師として活躍し、チキはというと偏差値70台の私立中学に通いつつも、そんな自分をごくごく普通の平凡な中学生だと言ってのける女の子に成長していた。いや〜、偏差値70台は平凡じゃないと思うぞ。まあ自分で優秀とかいうのも変だが、ごくごく平凡とか付け足すのも変だ。というか、無人島で生まれた双子ってだけで平凡じゃないからな。

 ま、チキとチータのどちらが幸せなのかは分からないけど、何かチキがいつか東京島に行ってみたいって言っているので、ぜひとも言ってもらいたい。

 あと、最初の脱出者ワタナベだが、その後も何度か東京島周辺にやってきては島民をからかっているとか。。。アホだな、、、つーか、何かの拍子にもう一回遭難して東京島に戻ってもらいたい。でも島民は意外と優しかったりするから殺されたりはしないんじゃないかな。

 

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