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警察庁から来た男

佐々木譲の道警シリーズ第二弾。

 今回は警察庁の監察官が道警に乗り込んでくる話。そしてそこから道警の裏にはびこる暴力団との癒着が浮かび上がってくる。話は少し突拍子もないが、ストーリー展開が絶妙で前作以上のノンストップストーリーに仕上がっている。

 それからタイトルの警察庁から来た男でもある藤川が、キャリアを地でいっていて、なかなかいい味を出している。普通の人とはズレているところとか、いかにも警察小説に出てくるキャリアって感じだ。本物の警察キャリアもこんな感じなのだろうか???

 

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(「BOOK」データベースより) 北海道警察本部に警察庁から特別監察が入った。監察官は警察庁のキャリアである藤川警視正。藤川は、半年前、道警の裏金問題の為に百条委員会でうたった(証言した)津久井刑事に監察の協力を要請した。一方、札幌大通署の佐伯刑事は、ホテルでの部屋荒らしの捜査を進めていた。被害者は、すすき野の風俗営業店で死んだ男の父親だった。大通署に再捜査の依頼の為、そのホテルに泊まっていたのだという。佐伯は、部下の新宮と事故現場に向かうのだが…。『笑う警官』に続く道警シリーズ第二弾。

前作『笑う警官』から半年ほど経過した北海道警察が今作の舞台となる。

 百条委員会で道警の裏金問題に関する証言をした津久井巡査部長は警察学校の総務係営繕担当という閉職に左遷させられていた。道警側としては、組織を売るとどうなるのかを新任警察官の目の当たりにする目的があるようだ。しかし、津久井は逆に組織の腐敗を証言するために不貞腐れたりせず、正しいことをしたと胸を張って職務を全うしていた。うーん、相変わらず素晴らしい。

 そして、その津久井問題で道警本部に反目した佐伯警部補ら有志チームのメンバーはというと、こちらは何とか報復人事を受けずに現場に残っていた。

 そんなある日のこと、警察庁監察官である藤川警視正が道警に突然やってくる。警察庁が所轄レベルを直々に監察するのも、事前通達のない緊急特別監察というのも異例中の異例だった。

 そして、その藤川は道警を監察するにあたり、サポート役として津久井を抜擢する。一見してキャリアと分かる言葉遣いや風貌、スタバのカフェラテを頼んだのに別のチェーン店のカフェラテが届けられて拗ねるといったズレを感じさせる一方、津久井のように仕事が出来る人間には信頼して作業の依頼をする。こういったバランス感覚はどことなく共感が持てる。

 藤川が特に監察対象としているのは、薄野の風俗店で起きた転落死亡事故の真相とタイ人少女人身売買組織についてだった。両方とも日本の警察と暴力団の癒着に絡めて海外ニュースで取り上げられたもので、その結果、海外からの非難を受けた警察庁長官が直々に命じたのが今回の監察だった。

 一方、佐伯と新宮もホテル部屋荒らしの捜査から、薄野風俗店の転落死亡事故へと足を突っ込むことになる。

 ここから藤川津久井チーム、佐伯新宮チームの捜査が同時並行的に進んでいく。津久井が両方を行き来したこともあったが、基本的には両チームはほとんど交わることもなく、後半まで一気に進んでいく。その中で読者だけに両者の接点が徐々に浮かんでくる形で物語が進んでいく。なかなか楽しませる構成だ。

 藤川の監察が進むにつれて徐々に手掛かりが集まり始めるが、それらは取るに足らない小さな不祥事ばかりで、肝心の暴力団との癒着につながるような大きなネタは全く見えてこない。どことなく違和感は感じるのに、集めた手掛かりには何ら共通項も見出せず、何が問題なのかも掴めない。藤川はここで道警システムへのアクセスをするために、半年前の有志チームでも紅一点で活躍した小島百合をチームに迎え入れる。最初は警戒心を露わにしていた小島だが、藤川が信頼に足ると分かると、持ち前の検索スキルを駆使して、これまで集めた手掛かりの共通項を見つけ出していく。そしてとうとう警察官で組織する野球同好会という決定的な共通項を見つけ出した。

 一方、転落死亡事故の真相を追う佐伯と新宮は、事故現場となった風俗店に当時勤めていたホステス中野亜矢へと辿りつく。彼女から決定的な証拠となる事故当時の動画を入手するが、中野亜矢が何者かによって殺されてしまう。うーん、ちょっとかわいそう。。。 つーか、この事故の第一通報者も中野勝幸というサラリーマンで、偶然同じ苗字なのがちょっと気になった。結果的にたまたま同姓ってだけみたいだが。。。 で、この捜査の過程で警察内部の捜査情報が漏れていると感じた佐伯は、うまく罠を仕掛け、警察内部の裏切り者を炙り出した。何と情報リークをしていたのは、野球同好会のマスコット的存在だった婦警だった。

 そんなこんなで道警野球同好会と暴力団の癒着という、とんでもない事態が発覚したわけだが、この裏組織の元締めである警察学校の山岸校長が隠し財産を持ち出して逃亡。それを追う警察や暴力団が入り乱れて、空港での発砲ドンパチ騒動に発展する。現場慣れしていない藤川が暴力団に人質にされるアクシデントもあったが、何とかこれを取り押さえ、物語が終了する。後日談もない終わり方がちょっと消化不良気味。

 最後の騒動の中、山岸は追ってきた暴力団員に殺されてしまったっぽい。うーん、ノンキャリで警視正まで昇りつめて、あと少しで定年だったのに、、、不憫だけど、まぁ、自業自得か。

 あと、今回ちょっと気になったのは、佐伯と小島の間に微妙な恋愛感情のようなものが見え隠れしていた。この辺は前作では気がつかなかったが、次作『警官の紋章』ではもう少し明らかになってくるのだろうか???

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