『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』でお馴染みの万城目学氏のエッセイ集。特定雑誌の連載ではなく、いろんなところに掲載されたエッセイをかき集めた形のようだ。
実はこの本、かなり前からチェックしていたんだけど、万城目氏の独特の文体って小説でこそ発揮されると思っていたので、なかなか読む気になれなかった。が、読んでみるとやっぱり面白い。文才のある人は何を書いても面白いんだなぁ、と思った。あと、エッセイ集って苦手だったけど、この人のは次も読みたいと思った。
(オンライン書店ビーケーワンより)
万博公園に出現したオレンジ色の巨大怪鳥とは。係長から「マキメっち」と呼ばれるとき。「この世に存在するはずのない曲」への想い…。オニを遊ばせ、鹿に喋らせる、マキメ・マナブのマーベラスな日々を綴ったエッセイ集。
冒頭の「風が吹けばエッセイを書く」からいきなり面白い。著者が作家になったキッカケの1つでもある高校二年生の現代文の授業の話。著者の文章の面白さを発掘した先生の度量の広さに感服しつつ、この頃から非凡な才能を発揮していたのかと感心してしまう。
こんな感じで冒頭から飛ばして行くワケだが、時々大ヒット、たまに小ヒット、それ以外も大半が普通に面白いって感じで、とにかく最後まで飽きずに一気に読める。
中でもイチオシはゴキブリとの戦いの記録である「御器齧り戦記」 ゴキブリとの戦いをここまで面白おかしく書けるのはこの人しかいないんじゃないだろうか。特に「黒い稲妻」のネーミングセンスには脱帽。そういえば伊坂幸太郎『魔王』で安藤潤也がゴキブリを「せせらぎ」と言っていたのを思い出した。さらにその後に続く「ねねの話」がこれまた対照的で、切なくてとても幸せな話。あまりの不意打ちに涙が出そうになった。
他にも、地元ローカルラジオ局のダメダメな話や会社勤務時代の先輩カンゲキさんの「オリーブの首飾り」「PRIDE」の話、トルコのサウナでのアリ・ダエイっぽい人とのエピソードなどは大爆笑だったし、ヴェネツィア国際映画祭の思い出話や大阪弁の話など、なるほど~と思うネタも。
それから、万城目氏のデビュー作『鴨川ホルモー』だが、作家に専念して2年が経ち、もう後がない状態で出した起死回生の逆転ホームラン作品だったことが、このエッセイで明かされている。