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「フラガール」を支えた映画ファンドのスゴい仕組み

ちょっと前に読んだ本。あの『フラガール』を通して、映画産業の一端が垣間見え、なかなか楽しめた。

そういえば、最近ちょっと時間と場所の関係で映画館から遠ざかっているが、また行きたいと思う。

「フラガール」を支えた映画ファンドのスゴい仕組み (角川SSC新書)
岩崎 明彦
角川SSコミュニケーションズ
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(「BOOK」データベースより)
2006年度日本アカデミー賞作品賞を受賞し、独立系映画としては異例の興行収入15億円突破を果たした『フラガール』。この映画の資金調達は、映画ファンドと呼ばれる手法で行われた。シネカノン社が製作・配給する20作品に対し、45億円を出資するという日本映画界史上空前の規模のファンド組成に関わった著者が描く、映画ビジネスのオモテとウラ。リターンを極大化するコンテンツと、リスクを極小化するファイナンスとが融合したとき、新しい時代のビジネスが開ける。

第1章『フラガール』誕生秘話
フラガールが歴史を変えた日本アカデミー賞の受賞式の模様が書かれている。実はフラガールの日本アカデミー賞受賞というのは、業界としてはかなり驚愕な出来事だったらしい。

第2章『フラガール』で学ぶ映画ビジネスの構造
映画ビジネスについて、その全体像を説明している。
まず、一口に映画ビジネスと言っても、製作、配給、興行とフェーズが分かれていて、その全てに関わっているのが、東宝・松竹・東映といった大手映画会社。その他の会社はこの3つの機能のうちの1つだけをターゲットとしていることが多いという。

製作会社は日本に1000社もあり、約50社程度と言われる有力会社以外は下請け孫請けの立場になっているという。やっぱりどんな業界でもヒエラルキーというのが存在するんだなぁ、とつくづく思った。

配給会社は東宝・松竹・東映の大手配給会社をメジャー、フラガールのシネカノン少林サッカークロックワークス博士の愛した数式アスミック・エースなどが準メジャーと呼ばれているとか。

興行機能を担う劇場はというと、大手配給会社の系列映画館と外資系や商社系のシネマコンプレックスに大別される。全国3000あるスクリーンの3分の2をシネマコンプレックスが占めているらしいが、メジャー配給会社もTOHOシネマズ、MOVIX、Tジョイといったシネマコンプレックスを展開しているので両者の垣根はあいまいになってきているらしい。これらの他に単館、ミニシアターと呼ばれる劇場があり、渋谷のシネマライズやシネクイント、銀座のシネスイッチなどは結構有名。

そして、今注目なのが映画著作権ビジネス。今や劇場上映による収入よりもDVDなどのビデオグラム収入の方が多く、全体収入の半分近くを占めているという。ちょっと前に次世代DVD規格の争いがあったが、あれだけ白熱した理由が分かった気がする。VHSとベータの争いとは桁違いの大きなものがかかっていたワケだ。

第3章『フラガール』を支えた映画ファンドとは何か
ここからが本題のファンドに関する話。
まず驚いたのはたった1ヶ月ちょっとで46億4000万円をかき集めたという話。しかも1口が2000万円もするという。この章を読むまでは1口数10万くらいかな~、と勝手に思ってて、自分もいつか余裕資金ができたら映画ファンドをやってみたいな~、なんて考えていたが、1口2000万円は無理だ。ちょっとした家が買えちゃう。。。 世の中、お金ってあるとこにはあるんだなぁ、と思った。

ちなみに書名から勘違いしやすいが、このシネカノン・ファンド第1号はフラガール単独のファンドではなく、フラガールを含めた約20作品が対象となっていて、シネカノン社製作作品だけでなく買付作品も含め様々なラインナップになっている。こうした様々な作品を対象作品とすることでリスクヘッジを計り、出資者が完成リスクや追加出資義務を一切負わないようにするなど、よく考えた作りになっているようだ。

本書執筆時点では、このシネカノン・ファンド第1号の他にも角川ファンドと呼ばれる「日本映画ファンド」、松竹ファンドと呼ばれる「忍―SHINOBIファンド匿名組合」などの映画ファンドがあったという。

角川ファンドの方は業界関係社数社からの投資で成り立っており、個人投資家は関わっていないという。運用結果としては対象作品の一部『着信アリ2』『戦国自衛隊1549』が興行収入10億円越えを達成しており、ファンド期間はまだ数年残っているが最終結果が大いに期待できるとのこと。

一方、松竹ファンドの方は、インターネット証券を介して個人投資家から投資を受けているが、対象作品が『SHINOBI』1本らしく、しかもその作品が興行収入14億円と比較的ヒットしたのに、総費用がそれを上回ってしまったため、運用成績は微妙らしい。1口いくらなのか分からないが、千万単位の投資で微妙とかは嫌だなぁ。

筆者によると映画ビジネスはヒットを打つのが難しいが、ヒット時の回収率が2倍3倍となるため、5本中1本が大当たりすれば、あと2本が収支トントン、もう2本が失敗でも十分らしい。となると、シネカノン・ファンド第1号のように20作品を対象としたファンドは決して高望みはできないが、大コケすることも少ないと言えそうだ。

筆者もこういう形だからこそ、『フラガール』という大ヒット作品に出会えたのだと書いているが、確かに第1章で『フラガール』の企画段階はおろか、台本を読んだ時ですら、『フラガール』のヒットは予想できなかったと言っており、映画の1点買いの難しさがよく分かった。

第4章「シネカノン・ファンド第1号」ができるまで
著者の経歴はアメリカ系投資銀行にて企業M&Aアドバイザリー業務を経て、ジャパン・デジタル・コンテンツ信託(コンテンツビジネスへの投資に特化した会社)に転職。転職当初は互いを知らないが故に疑いの目で見る映画業界、金融業界の両業界の橋渡し役としていろいろ苦労があったようだ。

そこでアイドルファンドに関わった経験が転機となり、アニメファンド、映画ファンドへと発展させていく。

この筆者によればコンテンツファンドの最終形態は、音楽著作権やオンラインゲームなどが向いているコンテンツの証券化、映画ビジネスが向いているコンテンツ版投資信託といった形になるという。ただ証券化については、プライマリーマーケット(発行市場)とセカンダリーマーケット(流通市場)の提供が必要で、なかなかハードルは高そうな印象。投資信託は筆者が実現したシネカノン・ファンド第1号からそうかけ離れていないので実現可能性もそれなりにありそう。

と、こんな感じでフラガールを通して、映画ビジネスへの投資についていろいろ知ることが出来た。あとがきにもあるように金融によってリスクをゼロにまで抑えるこむことができ、さらにエンターテインメントコンテンツにリターンを極大化する可能性があるのなら、その組み合わせであるコンテンツファンド、コンテンツの証券化、コンテンツ版投資信託は非常においしい投資対象なのでは?と思った。そんな簡単じゃないだろうけど。。。


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