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隠蔽捜査

警察庁キャリア官僚が主人公の異色警察小説。主人公竜崎は東大法学部卒の警察庁キャリア。階級は警視正、役職は警察庁長官官房総務課長というバリバリのエリート。

それにしてもこの竜崎のキャラが強烈だ。原理原則を重んじるかなりの堅物で周囲からは変人呼ばわりされている。変人呼ばわりされても気にもせず、自分を貫く。ある意味一本筋が通っている。曲がったことが大嫌いで自分に厳しく他人にも厳しい。なあなあ主義の人には煙たがれているがそんなことはおかまいなし。妻の冴子にまで世間とずれているなどと言われている。

そんな主人公が警察組織と自身の危機に直面し、窮地に追いやられながらも決断を下すという骨太小説だ。

あ、警察官僚といって真っ先に思いつくのは『踊る大捜査線』シリーズの室井管理官。彼は警視庁捜査一課の管理官だが、竜崎の役職(警察庁長官官房総務課長)はそれよりも相当上っぽい。室井管理官でもあれだけ偉そうだったことから考えても、竜崎の偉さっぷりが想像できる。

隠蔽捜査 (新潮文庫)
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吉川英治文学新人賞(第27回)】警察組織を揺るがす大事件に直面したエリート・キャリア。組織を、そして自らを守るために、彼が下した決断は…。霞ケ関の本庁舎でキャリアの孤立無援な闘いが始まった。警察小説の新天地を拓く書下ろし長編。

物語は警視庁綾瀬署管内で起きた暴力団組員殺害事件から始まる。暴力団同士の抗争によるものと思われたが、竜崎の部下、谷岡広報室長によるとこの事件の被害者が実は十数年前に世間を騒がせた女子高生誘拐監禁強姦殺人死体遺棄事件の共犯者とのことだった。

その数日後の深夜、竜崎の家の電話が鳴る。電話の主は警視庁刑事部長の伊丹だ。先の殺人事件で捜査現場を仕切っていた伊丹が、今度は埼玉県で起きた殺人事件について報告してきた。この事件の被害者も女子高生誘拐監禁強姦殺人死体遺棄事件の共犯者だった。

さらに3件目の類似事件が警視庁大森署管内で発生。事件こそ違うがやはり凶悪な少年犯罪の犯人が犠牲になった形だ。そして捜査の結果、これら一連の事件は現職警察官の犯行ということが濃厚となり、警察庁内部ではもみ消しの不穏な動きが出始める。

そんな警察機構の大ピンチの最中、竜崎は自分の家庭の問題も抱えることになる。期待していた長男邦彦が自室でヘロインを吸っている現場を目撃してしまったのだ。周囲からはもみ消しを勧められ、自身の出世や娘の婚姻話などが絡んだ複雑な話へと発展していく。判断に迷いが生じた竜崎だったが、警察庁と家庭という二つの不祥事に直面し、ついに決意することになる。

竜崎は警察の不祥事も自身の不祥事もすべて隠さず表に出すことにした。何かを隠すために工作をしても、それが露呈しそうになった時の上塗りは最初の工作以上のエネルギーが必要となる。それが連鎖して次第に大問題へと発展してしまう。だから最初から真実を公表するのが一番傷が浅く済む。竜崎はそう考え、全てを公表することにした。

結局、竜崎に敵対していた坂上捜査第一課長が飛ばされることに。伊丹にもみ消しを指示したことが警察庁長官に伝わり、長官の激昂を買ったためだった。竜崎の上司、牛島参事官も当初はもみ消しを黙認していたが、竜崎に諭され真実公表路線に移っており、結果的に竜崎に救われた形だった。

一方、竜崎自身の不祥事は警察庁で処分されることになる。竜崎に恩義を感じていた牛島参事官の口添えのおかげもあり、大森警察署の署長となることが決まった。左遷には違いないが、最悪の場合、地方の小さな所轄に飛ばされることも想定していただけに、それほど悪くない人事だと感じていた。息子の邦彦も保護観察処分と予想以上に軽い処分で済んだ。というか、竜崎が堅物だったため、勝手に重刑を想像していただけだが。。。 

こうして、警察と竜崎を巻き込んだ不祥事は実にきれいな形で決着がついた。

非常に楽しめたがボリュームが少し足りなかったのが残念。もう少し量が多くても良かったかなぁ、と。続編、『果断―隠蔽捜査2』も早速チェックしようと思う。これシリーズ化しないかなぁ。。。

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