久々の伊坂作品。昨年秋に出た『モダンタイムス』が本作品の続編になってるらしいのでちょっと読んでみた。
念じたことを他人に喋らせたり、10分の1以上の確率の勝負に負けないなどといった、ちょっと微妙な能力を巡る話。かと思いきや、もっと奥が深いストーリーで、なかなかの読み応え。読み終わってからじわじわと広がってくる感じだ。
会話のテンポのよさは典型的な伊坂作品って感じだが、いつものような絶妙な伏線は少なかった気がする。
(「BOOK」データベースより) 会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。
本作品は前半と後半で視点が変わる二部構成。
前半の主人公は安藤という青年。とにかくいろいろな事を深く考え込む性格で、ファシズムや独裁に非常に敏感。
安藤を取り囲む登場人物は、安藤の性格とは対照的に少し脳天気なキャラが多い。安藤の弟潤也とその彼女の詩織ちゃんは特に脳天気で笑える。他にも、美人で気さくな同僚の満智子さん、学生時代の友人島など、伊坂作品らしい楽しいキャラばかりだ。
それにしても安藤の弟潤也が最高すぎるキャラだ。ゴキブリをせせらぎと呼ぶユーモアもいいし、何よりも潤也が見たという安藤が犬に寝そべって死ぬ夢の話は、伊坂作品の中で一番爆笑したかも。特に『世の中で一番安らかな死に方です』のキャプションが何とも言えなかった。
で、ストーリーの方はというと、地下鉄で老人に「偉そうに座ってんじゃねえぞ。てめえは王様かっつうの。ばーか」と言わせたり、無茶苦茶ないびりに耐えてる部下に「課長、それどういう意味だ?もう一回言ってみろ」「偉そうにしてんじゃねえぞ。責任取らねえ上司の何が上司だ。」なんて言わせて横柄な課長を休みに追い込んだり、、、とまあ、しょーもない能力としょーもない会話でダレてきた中盤、安藤が搭乗予定だった遊園地のアトラクションが事故を起こすという事件が。死人が出なかったのが幸いだったが、大破した無人の座席は直前に安藤が座るのを断った席だった。これは偶然なのか? それからというもの、夜中につけられている感覚に襲われたり、職場で自分のパソコンだけが起動しないことに不安を感じたり、安藤は些細なことでびくつくようになる。
満智子さんに誘われて着いていったライブ会場で、安藤がよく行くバー「ドゥーチェ」のマスターと出会う。これにより話は予想外の方向に、、、本当に安藤が死んでしまうとは、、、 後半は安藤の死から5年後、舞台を仙台に移す。主人公は安藤の弟潤也へと移り、その恋人の詩織の視点になる。
潤也は兄の死をきっかけにジャンケンで必ず勝つ能力、というか10分の1以上の賭けに勝つ能力を持つことになる。
そしてこの能力をフル活用して、これまでお調子屋だった潤也が豹変し、兄の遺志を継ぐような行動を起こすことで物語が終わる。
国民投票の結果も分からず終いだし、カリスマ政治家犬養を守っていた能力者の正体なども分からなかったが、何か奥のある締め方は良かった。いろいろ想像が膨らむ。というか、これを読んだ時点で、続編の『モダンタイムス』の存在を知っているからそんなことが言えるのかも。。。
伊坂作品お得意の理系ネタ。今回は紙を25回折り畳むと富士山くらいの高さになるってヤツ。理屈では分かるのに感覚がついていかない。これは知らない人は本当にビックリするが、よーく考えると当たり前。倍々ゲームのすごさと恐ろしさを実感できるいい例かも。そして、前半に出てきたこの話が、後半の潤也の生き様を決定付けることになっているのが何とも奥深い。
尻切れトンボ感は否めないが、いい感じの余韻が楽しめた。『モダンタイムス』が楽しみだ。
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