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満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う

JR東日本に17年間勤務し、現在は交通や鉄道のコンサルティング・研究に携わっている著者による満員電車撲滅作戦。

もちろん本数を増やせば満員電車は解消できるが、現在の過密ダイヤではこれ以上の増便はなかなか難しい。

じゃあどうするか? 様々な視点から輸送力アップの施策を検討していて、なかなか面白かった。

まぁ、少子高齢化や在宅勤務など、日本人のライフスタイルの変化もあるので、本当に満員電車対策がそこまで必要なのかも疑問の余地はある。特に、交通網の利便性向上で少子高齢化が解消して人口が増えるという筆者の考えは、いささか乱暴な気がした。

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(「BOOK」データベースより)
他人と体を押し付け合い、へとへとになりながら通勤電車に揺られる毎日。そんな生活にうんざりしながらも、いつしか諦めてしまっている人は少なくないだろう。しかし、著者の提案する3つのイノベーションを実現すれば、満員電車はなくなり、日本のサラリーマンは本当の意味で豊かな生活を手に入れることができる。鉄道大国ニッポンが長年頭を悩ませてきた最大の問題「満員電車」をあらゆる角度から検証し、旧態依然とした日本の鉄道業界に一石を投じる、渾身の一冊。

この本を読んで一番驚いたのは満員電車が戦前からあったということ。そしてこの本によれば満員電車の歴史は運賃抑制の歴史でもあるという。なるほど、確かに他の交通機関と比べると、鉄道の運賃はかなり安い部類に入る。公共交通だから仕方ないとも思えるが、著者はそういった考えが鉄道経営を圧迫し、結果的に満員電車へとつながっているのだと説く。

明治時代に制定された鉄道営業法。その中に驚くべき法律が記載されている。なんと空いている座席がない場合は乗客を乗せてはならないという法律が未だに有効になっているとか。そしてそれに対する鉄道会社の言い分は乗客が勝手に乗っているという解釈だとか。。。 え? たまに職員が満員電車に乗客を押し込んだりしてるよね? ちなみに押し屋の学生アルバイトは昭和20年代後半からあったらしいです。

満員電車を解消するために新線を開通するも、今度はその沿線に人が住み始め、その線も満員電車になっていくといういたちごっこ。なので新線をいくら増やしても限界があるわけですね。そこで筆者がいくつかの施策を打ち出しています。

信号システムの改良、総2階建て車両、3線運行、鉄輪式リニア、可動式カントなど様々な施策が紹介されています。総2階建て車両は東海道線のグリーン車に使われているのとは違って、完全に全てを2階建てにし、階段部分がもったいないから車内では1階と2階はつなげないという潔さ。それに合わせて液のホームも2階建て対応するという。

学生時代から鉄道輸送の効率化に目を向けてきた筆者。さすがに目の付け所が違う、というか違いすぎる。ただ、それ故になかなか受け入れられないだろうと思った。理由は今の日本の鉄道業界では当たり前になっている慣習をことごとく変えようとしているから。

確かに受けるサービスが違えば支払う金額も変わるはず。普通の商売で考えれば当たり前のことだ。鉄道でも普通車両より早い特急車両に乗ればそれ相応の料金が加算される。だったら座ってる客は立ってる客より多く払わなきゃ、というのが筆者の考えだ。実際、グリーン券やライナー券なんかは受け入れられているし、今ではSuicaなどのICカードも普及しているから技術的にも可能だと思う。けど、鉄道が公共公益事業という側面がある以上、世間一般の考えからするとこれはなかなか受け入れられなさそうだ。多分、相当なパラダイムシフト、意識の変革が必要になるんじゃなかろうか。

また、通勤通学などの運賃割引を鉄道会社の経営努力に任せるのではなく、国の補助で行うべきだという考えも、鉄道経営側からすれば全うな考えだと思う。けど普段鉄道を利用しない人、特に通勤通学に鉄道を必要としない人からしたら税金投入なんて、と思うだろう。

まぁ、こうやってできない理由、否定的な意見というのはいくらでも出せる。だがそんなこと言ってるうちは小さな変化しか生み出せない。だからこそ、筆者には本を出すだけでなく、実際に動いて頑張って欲しいと思う。風当たりは厳しいと思うけど。

筆者に言わせれば、現在の首都圏の交通事情は、人は地下鉄で地下に追いやられ、モノは物流トラックが地上を走っている。人は地下、モノは地上という今の状況は異常だという。確かに異常だ。そこで筆者の構想は、鉄道貨物輸送の弱点である末端輸送をトラックに頼らなざるをえない点を首都圏の地下鉄網でクリアするという。さすが目の付け所が違う。徐々に地下鉄網でモノを運び、空いた地上に人を戻し、将来的には人は地上、モノは地下という本来の姿に戻すという。それにはJRだけでなく地下鉄や首都高速など地域交通全体が一丸とならなきゃできないだろう。東京メトロと都営交通の合併話ですら、あんだけの騒ぎになる現状では相当厳しいと思う。

でもまぁ、こういった考えの人がいないと変化は起きないんだよなぁ。


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