読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

zakky's report

ネタバレ上等ブログ

 

笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE


スポンサーリンク

 

森博嗣「S&Mシリーズ」第3弾。なんかハマってる。。。

天才数学者天王寺翔蔵博士の住む三ツ星館で巨大オリオン像が消えるマジックと共に殺人事件が起きる。例によって犀川助教授と西之園萌絵がこの事件解決に挑む。

今回は事件の舞台となる三ツ星館の形に注意すれば、とりあえず事件のトリックについては簡単に解ける。ただし、事件の背後にある動機や人間模様はすごく複雑。トリックは簡単だけど謎は多く残る作品。普通そんなだと消化不良でむかつくはずなんだけど、本作にはそれがなく、いい感じで読み終えられた。

  

笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)
森 博嗣
講談社
売り上げランキング: 746

■S&Mシリーズのエントリーはこちら

すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER - zakky's report

冷たい密室と博士たち―DOCTORS IN ISOLATED ROOM - zakky's report

笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE - zakky's report

詩的私的ジャック―JACK THE POETICAL PRIVATE - zakky's report

 

(「BOOK」データベースより) 伝説的数学者、天王寺翔蔵博士の住む三ツ星館でクリスマスパーティーが行われる。人々がプラネタリウムに見とれている間に、庭に立つ大きなブロンズのオリオン像が忽然と消えた。博士は言う。「この謎が解けるか?」像が再び現れた時、そこには部屋の中にいたはずの女性が死んでいた。しかも、彼女の部屋からは、別の死体が発見された。パーティーに招待されていた犀川助教授と西之園萌絵は、不可思議な謎と殺人の真相に挑戦する。

 

 

 

舞台となる三ツ星館はオリオン座を象った建物で、正確な長方形の敷地の中心部に3つの丸い建物が斜めに一直線に並んだ形になっている。巻頭に三ツ星館の図があり、この建物が点対称であることは容易に分かる。そして、ここに注目すれば、細かい点や動機など腑に落ちない点は残るものの、オリオン像消失マジックと殺人事件のトリックは容易に解けてしまう。

ところが、本作最大の謎は別にあった。それは三ツ星館地下に住む博士、三ツ星館周辺で発見される白骨死体、最後に少女と話している老人のそれぞれが、天王寺翔蔵、天王寺宗太郎、片山基生の誰なのか、ということ。これについては作品内では説明がなく、読者自身が読み解かなければならない。が、多分無理。というか、勝手に決めるのが正解なんじゃないかな。

犀川助教授も『我々は、ものを定義して、それを基準に観察するんですよ』と言ってるし、つまり誰が誰でってのを全て読者が定義すればいいんじゃないかと勝手に解釈。

で、個人的には地下室にいたのが片山基生、白骨死体が天王寺宗太郎、少女と話していたのが天王寺翔蔵、と定義してみた。細部はともかく何となく大筋でスッキリする気が。

まず、犀川が地下室の博士に会った時に十数年前テレビで見た博士と変わらない印象を持った点、また、天才数学者と言われていた博士の大したことなさに失望した点を考えると地下室の博士は天王寺翔蔵ではないと考えるのが妥当。じゃあ誰なのか? 最後の病死、三ツ星館の熟知度から考えると片山基生じゃないかと。

本物の天王寺翔蔵は『睡余の思慕』の老人同様に三ツ星館を出て行ったと考えられる。つまり最後に少女と話していた老人だ。まぁ、犀川に言わせれば天才数学者が凡人のレベルに下りて話すなんてダメらしいですが、過去を捨てた天才数学者ということで、少女と話すのもアリなのかと。

で、あとは白骨死体が天王寺宗太郎ということになるんだけど、これはまぁ消去法。。。本当に自殺したのかもしれないし、亮子絡みで基生が宗太郎を殺害したのかもしれないし、まぁよく分からない。

とまぁ、こんな感じで「地下室=基生」「白骨=宗太郎」「少女と話す=翔蔵」と定義してみた。どうやら本作の最大のテーマは『定義するものが存在するもの』ということで、まぁ、決めちゃったもん勝ちみたいなので、これでいいやという気持ち。

それから、本作で犀川と萌絵が面白い話をしていたので残しておきたい。1つは殺人が起きうる人数の話。2人だと殺人者が特定されてしまうし、3人でも殺人に関与していない1人に殺人者が特定されてしまうから起きない。ところが4人になると殺人に関与していない2人にも殺人者が特定できないため起きない。無実の1人が加わることで殺人が成立するという話。こういう理系とは無関係そうな話を数学的に話すのは興味深い。

次は無重力状態で紙飛行機を飛ばしたらどうなるか、という話。萌絵は重力がないから揚力だけが生じて上がっていくと予想。犀川によれば前後の軸でロールしながら飛ぶというのが正解らしい。上下および左右の軸については尾翼に当たる空気で復元力を得て、自立安定作用が働く。ところが前後の軸だけは進行方向と平行なため復元力ないというのが理由だそうだ。分かったような分からないような。。。確かつい最近、実際に宇宙で紙飛行機を飛ばすという実験が行われるとかって聞いたけど、あれはどうなったんだろうか??? それから最後が鏡に映った像は左右が逆になるのに上下は逆にならない理由。今まで考えたこともなかったが、確かに不思議だ。で、犀川によれば、それは人間の定義の問題だとか。人間にとって上下と前後は絶対的に定義されるが、左右の定義だけは絶対ではない。上下と前後が決まって初めて左右が決まることが、鏡像が左右逆になる理由だとのこと。なんか物理現象と人間の知覚が微妙にミックスされていて分かりにくい。まぁ、でも非常に興味深い話だった。

とまぁ、いろいろと謎も多く残ったし、腑に落ちない点も多々あったけど、それでも読後感がスッキリしていた。前作『冷たい密室と博士たち』とは違った感じでまた良かった。なんか萌絵の犀川への精神攻撃も段々過激になってきてるし、ほんと先が気になる。