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冷たい密室と博士たち―DOCTORS IN ISOLATED ROOM

理系ミステリィ作家、森博嗣氏の「S&Mシリーズ」第2弾。『すべてがFになる』を読んでから少し間が空いてしまった。。。

今回も前作同様密室モノ。同僚の喜多助教授の誘いで局地環境研究センタ(局地研)での実験見学に来た犀川助教授と無理やりついてきた西之園萌絵。実験終了後の打ち上げパーティの最中、衆人環視の実験室で研究生2名が刺殺されるという事件が発生。

事件解決には乗り気でなかった犀川助教授だが、西之園萌絵の暴走調査に巻き込まれて、ついには巧妙なトリックを暴くことになる。

今回すごいと思ったのは密室トリックがすべて理論立てて説明できる点。あやふやで不確実な要素が排除されており、理詰めできっちり解けるようになっている。さすが理系ミステリィと唸ってしまった。何となく旅人と狼と羊とキャベツの川渡りパズルを思い起こしてしまう。

 

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)
森 博嗣
講談社
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■S&Mシリーズのエントリーはこちら

すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER - zakky's report

冷たい密室と博士たち―DOCTORS IN ISOLATED ROOM - zakky's report

笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE - zakky's report

詩的私的ジャック―JACK THE POETICAL PRIVATE - zakky's report

 

(「BOOK」データベースより) 同僚の誘いで低温度実験室を訪ねた犀川助教授とお嬢様学生の西之園萌絵。だがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室の中で、男女二名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人は、どうやって中に入ったのか!?人気の師弟コンビが事件を推理し真相に迫るが…。究極の森ミステリィ第2弾。

 

 

事件が起きて数週間後から物語が始まる。そこから犀川、喜多、萌絵が事件発生時のことを思い出すという形で事件の状況が明確になる。読み手は「第2章 整理される事前」「第3章 実験と観察」「第4章 発見される事後」で事件について知ることができ、今回のメインの密室殺人事件の重要な手掛かりは、ほとんどここで出てくる。動機はともかく、トリックについては暴けるだけの情報が揃っているんじゃないかと思う。犀川助教授が犯人宛てのメールに『手法はすべて自明。しかし、動機が理解不能。・・・』と書いている通り、動機についてはかなり複雑。

この動機を探る手掛かりになるのが、メインの密室殺人と複雑に絡んで発生する(発覚する)2つの死亡事件だ。ただし、読者にはこのサブ事件も密室トリックを説くためのヒントに思えてしまうので、ここで思考が揺らされてしまう。こうなると解けるものも解けなくなってしまう。

ここまで犀川は事件解決は自分の仕事ではないと考え、事件からは極力距離を取ってきた。ところが、ここで萌絵が暴走調査を始める。自分なりに集めた情報(といっても愛知県警本部長の叔父、西之園捷輔から無理やり入手した警察内部情報だが。。。)と密室トリックの推理を検証するために深夜の局地研に忍び込む。そこで萌絵は犯人に低温度実験室に閉じ込められ、危うく凍死しかけてしまう。ぎりぎりのところで萌絵を助けた犀川は、ここから一気に事件解決へと取り組むことになる。うん、かっこいいぞ犀川

その後、犀川が独自の推理見解を警察に説明する「第12章 背理の手法」は圧巻。まるで数学の問題を証明するかのような説明だ。複雑に見える事件の核心を「どうやって密室Aの最後の生存者xは脱出したのか」という命題に置き換えて、説明を始める犀川。萌絵と喜多も意図を汲み取り、犀川をサポートすることで、複雑だった問題が徐々に解かれていく。仮説を立てて、その矛盾からその仮説を却下する。そう、章のタイトルでもある背理法を巧みに使い、ある結論へとたどり着く。さらに裏の裏は表、危険の危険は安全、という計算を取り入れ、犯人を割り出す。

そして今回の推理で一番すごいと思ったのが密室に対する考え方だ。推理モノでは当たり前と思っていた密室殺人。しかし、よくよく考えてみると犯人の立場からすれば密室である必然性というのは薄い。犯人の労力の割りには、捜査をかく乱したり逃亡時間を稼ぐくらいにしか使えない密室トリック。今回はこの密室の扱いにも丁寧に説明をつけており、非常に納得感が得られた。

前作の真賀田四季のようなインパクトある登場人物は出なかったけど、密室トリックの解明と密室の取り扱い、そして驚きの動機解明まで含めて、非常によくできていたと思う。個人的には前作以上の評価です。