ザキレポ

ネタバレ上等ブログ

巡査の休日

北海道警察のノンキャリ刑事が巨大な警察汚職に迫る道警シリーズの第4作。

といっても今回は汚職絡みではなく、純粋に事件捜査のストーリーになっている。

かつて強姦犯に襲われかけた女性に再び脅迫メールが届く。北海道よさこいソーラン祭りの混乱に乗じて、犯人はターゲットに忍び寄る。それを阻止すべく、女性巡査が警備につくという話。

過去の道警シリーズのレビュー
 第1作 笑う警官 - zakky's report
 第2作 警察庁から来た男 - zakky's report
 第3作 警官の紋章 - zakky's report


巡査の休日
巡査の休日
posted with amazlet at 13.12.08
佐々木 譲
角川春樹事務所
売り上げランキング: 460,034


(オンライン書店ビーケーワンより)
小島百合巡査は、村瀬香里のアパートに侵入した強姦殺人犯の男を逮捕するが、男は脱走し行方不明に。1年後、香里に脅迫メールが届く。必死の捜索にもかかわらず、小島たちを嘲笑うかのように不気味なメールが何度も届き…。

前作『警官の紋章』の冒頭で出てきた元デリヘル嬢村瀬香織に対する暴行未遂事件の犯人鎌田光也が警察病院から逃亡することからストーリーが展開する。

鎌田は意識が回復してたのに、それを悟られないようにし、警備の隙ができたところでいきなり医師を脅して逃亡。拳銃で撃たれて負傷しているとはいえ相手は殺人犯だ。あまりにもお粗末過ぎる。

鎌田は警察の包囲網をかいくぐって北海道を脱出し、神奈川で強盗事件を起こす。と、同時期に村瀬香織のSNSアカウント宛てに不審なメールが届く。差出人はすでにアカウントを削除しており誰だか分からないが、鎌田である可能性が非常に高いということで、かつて村瀬を間一髪で助け、鎌田に発砲した札幌大通署生活安全課の小島百合巡査が村瀬の警備につくことになる。

そして道警シリーズおなじみの面々が登場。まずは津久井卓巡査部長。『笑う警官』で百条委員会に出廷し、北海道警察の汚職について話したために不遇の時を過ごした時期もあったが、警察庁の捜査への協力が認められて閑職から復帰し、帯広警察署に在籍していた。津久井は帯広警察署から出向という形で道警本部に設置された鎌田事件の捜査本部へ配置。捜査本部では渡辺という若手巡査と二人で鎌田を追っていく。

続いて、佐伯宏一警部補と新宮昌樹巡査。二人は相変わらず札幌大通署刑事一課の盗犯係として大きな事件には関らせてもらえず、周辺で多発する引ったくり事件を追っていた。

小島の村瀬ガード、津久井・渡辺の鎌田捜査、佐伯・新宮の引ったくり捜査が徐々に進むにつれ、一つに交わりそうになる。が、期待は見事に裏切られる。結局全てが別々の事件だった。

それにしても村瀬宛てだと思われた脅迫メールが実は小島宛てで、しかもその理由が以前DV被害の相談に行った時にきちんと対応してくれなかったから、というのはあまりにも酷い言いがかりだ。このDV被害女は小島が対応していたのだが、ちょっと緊急で別の話が割り込んでしまい、その隙にいなくなってしまったのだが、なぜいなくなるのか意味不明。そこできちんと警察に保護されていればよかったのに。。。 その結果、DV夫に見つかり、とっさのことで女は夫を殺してしまう。それはあくまでも女の責任であって小島には何の責任もないと思った。

それから津久井と渡辺の捜査は鎌田が過去に在籍した自衛隊関係から追っていき、徐々に足取りを掴み、結局、村瀬事件とは全く関係なし。佐伯と新宮のひったくり捜査は、佐伯が休暇で不在の日に新宮がひったくり犯を捕まえる。なんか新宮って今まで頼りなさげだったけど、ちゃんと刑事として成長しているんだなと。

なお、佐伯はこの休暇で東京に出向き、過去に追った事件の資料を愛知県警の服部警部補に渡していた。これを渡すことで愛知県警が追っている自動車盗難の組織犯罪を追い詰めることができる一方で、佐伯が迫ろうとしていた警察上層部の汚職の追及ができなくなってしまうというもの。

これには深い葛藤があったはずだ。実はこれに先立ち佐伯は上司の伊藤ともこの件について話をしている。この伊藤という上司がこの手の物語では珍しく話が分かる上司で、佐伯の決断を尊重しつつも、話の本質をぐさっとえぐる様な発言をしたりして、佐伯とは何かいい感じの関係だ。伊藤ははっきりとは言わないが、佐伯が警察上層部の汚職を追及することで、この件で服役している元同僚の郡司徹の身が危なくなる。文字通り、殺してしまうことにもなりかねない、ということを暗に示す。この示しがとても絶妙。もちろん佐伯も伊藤に言われるまでもなく分かっていたことだが、改めて再認識し、そして決断できたのではないだろうか。

ただ、これによってシリーズの方向性が警察汚職の追及からずれてしまったのかと思うとちょっと残念。てか、やっぱりこれ以上は難しいのかなとも思ったり。

でも、愛知県警の服部警部補が言った「キャリアどもが何をやっていようと、おれたちはくさらず、自棄にならず、まっすぐ自分の仕事をしような」という言葉には何か読者として救われた気がした。

しかし、このシリーズ、これからどういう方向に向かうんだろう。佐伯と小島のラブストーリー展開か???(汗)