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ネタバレ上等ブログ

Nのために

湊かなえ作品第4弾。

今回は腹黒女子高生はでませんw とはいえ、人物の内面にあるドロドロした腹黒さは今回も健在。

また、それぞれの人物視点での独白が新たな新事実を読者に突きつけるという形も従来どおり。

ただ、うまくつながってるようで実は何か噛み合ってないような、何か腑に落ちないような感じが残ってしまって、そこが今までの湊作品とは違って残念だった。

Nのために
Nのために
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湊 かなえ
東京創元社
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(「BOOK」データベースより)
「N」と出会う時、悲劇は起こる―。大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のために―。タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ。

10年前に高層マンションの一室でセレブ夫妻が死亡する殺人事件が起きた。そして、その事件に関ったほぼ全ての人がなぜかイニシャルNという何とも無理やりな設定。

まずは事件の中心となった野口夫妻について簡単に触れておこう。大手総合商社で同期より二階級も出世しているヤリ手商社マン野口貴弘(Noguchi)と美貌の妻、奈央子(Naoko)。野口の実家は資産家で奈央子の親はその商社の重役、そして住まいは超高層マンションの最上階付近の一室というセレブ夫妻だ。誰もが羨むほどの夫婦だが、実は奈央子は夫の暴力に人知れず耐え忍んでいた。

続いて、この事件に直接関ることになる4人について。

まずは当時貧乏女子大生にして野ばら荘住人の杉下希美(Nozomi)。母親譲りの美貌を持ちながらも気さくにして気丈、さらにはたくましさをも併せ持つ。趣味は将棋というのも何とも男勝り。しかし、父親の愛人騒動に端を発した一家崩壊の危機で味わった苦しみを内面に隠していた。そして、それこそが彼女をただの美しい女性ではなく、たくましい女性へと駆り立てたのかもしれない。

続いて杉下の相棒、安藤望(Nozomi)。同じ名前にして同じ野ばら荘の住人、そして地方の小さな島の出身という共通点まで持つ二人は、一緒にスキューバダイビングにも行く仲良し女子大生コンビ、、、かと思いきや、読み進んでいくうちにとんでもないことが発覚する。何とこいつ男でやんの。何でもそつなくこなし、野口氏と同じ大手総合商社で高みを目指す出世欲満々の男。

そしてもう一人の野ばら荘住人が西崎真人(Nishizaki)だ。幼い頃に母親から受けた虐待を愛の証だと思い込み、その事実を文学作品に昇華させようと大学にも行かずに野ばら荘に引き篭もりっきりのハンサム文学青年。自分と同じ境遇だった奈央子と不倫の関係になり、自宅に監禁されている奈央子を救い出すことを決意する。

最後が杉下と同郷の成瀬慎司(Naruse)。当時、シャルティエ・広田というフレンチレストランでアルバイトをしており、VIP向けの出張サービスを担当していた。実家は老舗の料亭だったが、経営が傾いて閉店してしまった過去を持つ。似た境遇だった杉下とはいくつかの接点があり、西崎が奈央子を救い出す計画にも杉下経由で加担することになる。

第一章で見えた事件の表面的な経過はこうだ。野口宅でシャルティエ・広田の出張サービスを使ったパーティを開く。参加者は野口夫妻と杉崎と安藤の4人。説明はめんどいけど、いろいろあって野口と安藤は職場では上司と部下だが、将棋相手でもある。野口は将棋であっても部下に負けるワケにはいかんということで、安藤に将棋の手ほどきをした杉下に将棋の相談を持ちかける。そのため安藤より先に呼ばれた杉下は野口と書斎に篭りっきりで将棋の作戦を練っていた。そこに安藤が予定より早く到着してしまい、野口は安藤に最上階のラウンジで待たせる。そして今度は花屋の配達に扮した西崎が奈央子救出にやってきた。そのまま奈央子を連れ出すはずだったが、安藤のところへ行こうとした野口と遭遇してしまい修羅場と化す。逆上した野口は妻の奈央子を包丁で刺し殺してしまい、それを見た西崎が燭台で野口を叩き殺してしまった。そこに杉下が書斎から出てきてパニック状態。出張サービス担当して到着した成瀬がかけつけ、杉下を助けて警察に通報。さらに遅れて何も知らない安藤がやってきたところに警察が到着。といった流れだったか。

最初の第一章では杉下、成瀬、西崎、安藤の4人が警察の事情聴取で喋った内容が書かれている。そのため読者には上記のような表面的な流れしか分からないようになっている。てか、こいつらみんな、それぞれウソをついたりしてるからややこしい。なぜウソをついているのか、それはそれぞれ一番大切な人が一番傷つかない方法を考えた結果だからだ。それぞれのNのために、それぞれがウソをつき、何かをし、殺人者にもなる、、、という。

そして10年後、、、

杉下は余命半年を告げられ、10年前の事件の真相を知りたいと思い始める。あの時、誰が誰を守るために何をしたのか?

それを知る手がかりが、第二章から第五章のそれぞれの独白で明らかになる仕組みだ。

事件とはあんまり関係のない、安藤が男だったってことが一番の衝撃というのが残念ポイント。本当は事件に関する新事実がたくさん出てくるのに、どうも安藤のせいで全てぼやけてしまった。それでも最後の第五章、西崎の回想で事件の真相がはっきりと分かり、一応すっきりできた。

ネタバレすると実は奈央子は西崎に好意を持っていたワケじゃなく、野口に近づく杉下を遠ざける役目を西崎に求めていたのだった。西崎はそんなこととは露知らず、奈央子を連れ出そうとしたのだが、奈央子が西崎に求めていたのは杉下を連れ出してほしいということだった。どうやら暴力を受けても野口を独占したいというのが奈央子の希望であり、最終的にはその屈折した思いから奈央子は野口を叩き殺してしまい、自らも包丁で割腹自殺という、、、え? それって夫婦心中ってこと? 


んで、結局、「Nのために」ってのは何だったのか。いろいろ解釈があるとは思うが、個人的な解釈はこう。

杉下は安藤を僻地行きから救うために野口を書斎から出した。その結果としてシュラバラバンバ。

成瀬は杉下を守るために三人で立てた奈央子救出計画について黙秘するための辻褄合わせを指南した。

西崎は奈央子を殺人者にしないために、自ら野口殺害犯を名乗り出る。

安藤は西崎のために名のある弁護士を紹介してあげる。

こんな感じでしょうか、それと元々の発端としては野ばら荘(Nobara-sou)のために動いた結果でもある。いろんな「Nのために」が巡り巡って、こうなっちゃったって話でしょうか。


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